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れん様ありがとうございました(*^_^*)セバシエがとても素敵です。
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素敵な漫画、イラストを描いてらっしゃいます。
訪問される際は、失礼のない様に、宜しくお願いします(^-^)

素敵な頂き物・相互記念「Angel Night~天使のいる場所~」
 Tear drops様より、キリ番ゲットしたリクエスト小説を相互記念で頂きました(*^_^*)



「Angel Night~天使のいる場所~」
1日の仕事を終え、自室に戻ったセバスチャンは今や日課となった日記・・・その日どんなことをシエルと話したのか、シエルのちょっとしたかわいらしい仕草や、誰にも話す事ができないシエルへの赤裸々な想いなどを書きながら、物思いにふけっていた。
シエルの執事兼家庭教師となり、シエルは『女王の番犬』として認められたが、自分のせいでシエルの右腕を負傷させてしまったことを悔やまない日はなかった。
入浴の際に、傷跡がかすかに残ってしまった細く白い右腕を見ると、あの時の事を思い出し、もっと自分がしっかりしていればと思ってしまう。
シエルとこれからも一緒にいる為にも、今まで以上に私自身が技術的にも、精神的にも強くならなければいけない。
自分の運命に私を巻き込んでしまったと常に、負い目を感じているシエル。
本来ならば、許婚である私が成長したシエルと結婚をして、シエルの父親であるヴィンセント様の跡を継いで『女王の番犬』となるはずだったのだから、私の運命もシエルの知らないところで決まっていた事になる。
しかし、シエルは私が自分の許婚であることをいまだに知らない。
さすがに、10歳の少女に許婚だと言ってそばにいるよりは、執事兼家庭教師としてそばにいる方がいいと思ったのだが、シエルと過ごすうちに芯の強さやしっかりとした考えを持っていることを知り、ふと不安に感じる事があるのだ。
いつか、シエルは私から離れて行ってしまうのではないだろうかと。
自分から期間限定の執事兼家庭教師としてそばにいることを提案したが、シエルが16歳になったら、真実を話し、結婚をするつもりでいた。
それまでの間に、シエルと恋愛をしたいと思っているのだけれど。
「そばにいて欲しい」・・・シエルはそう言ったけれど、「ずっとそばにいて欲しい」とは、決して言わないのだ。
私は、「ずっとそばにいたい」と言ったのに・・・。
そう言ったことから考えてみても、シエルはずっと私と一緒にいるつもりはないのではないかと思えてならないのだ。
聞いてみたいとは思うけれど、なかなか聞く機会もなく、ずっと心に引っかかっていた。
今、聞いたところで、素直に答えてくれるとは思えない。
私は、シエルから離れるつもりなど全くない。
シエルに私の気持ちを伝えたとしても、きっとシエルは自分の意志を通そうとするだろう。
私がいなければ、生きていけないとシエルが思うようにしてしまえばいい。
私がいない人生など考えられないようになってしまえばいい。
こんなことを考える時点で、私は酷い男だと思う。
しかし、私はもうシエルのいない人生など考えられない。
決してシエルが、許婚だからではない。
シエルと共に過ごすうちに彼女の芯の強さや大人に負けないほどの強靭な精神力、しかしその反面、少女らしい表情や私にしか見せることのない幼くも脆い本当のシエル、ビスクドールのように愛らしくも美しい容姿に惹かれてしまった。
シエル以上の女性に出逢うことは、もうないだろう。
生涯を共に過ごす伴侶として、私はシエルをみているのだから。
日記を机の引き出しの奥にしまうと、燭台を持ち、サイドテーブルに置く。
この部屋は名目上、上級使用人用の部屋になっているのだが、私の正体を知っているタナカが気を使い、ベッドや家具を高級な物に密かに変えてくれている。
この部屋に来るのは、シエルしかいないのだから、他の使用人の部屋との違いなどわからないだろう。
・・・タナカはどうやら、シエルがたまに私の部屋に来て寝ていることには、まだ気づいていないようだ。
燭台の灯りを消そうとしたとき、かすかに扉をノックする音がした。
気のせいだろうか?
様子をうかがっていると、またかすかに扉をノックする音がした。
セバスチャンは立ち上がると、扉をゆっくりと開ける。
真っ暗な廊下にたいぶ前に就寝の時間を迎えたはずのシエルが、フリルのたっぷりついた淡いピンク色のネグリジェを小さな手でぎゅっと掴みながら、下を向いて立っていた。
「・・・マイ・レディ。こんな遅い時間にどうしたのですか?」
寒い廊下に立たせておく訳にも行かないので、自分の部屋へ招き入れる。
「・・・・・・」
シエルはうつむいたまま、何も言わない。
セバスチャンは、片膝をつき跪くと、シエルと目線が合うようにする。
「怖い夢でも見たのですか?」
「・・・ち、違うわ。散歩していたら、この部屋だけ明かりがついていたから気になってノックしただけよ」
小さな声で言うと、さらにうつむく。
さらさらと絹糸のような長いブルネットの髪が前にこぼれ落ちて、シエルの顔を隠してしまう。
「こんな時間に散歩、ですか・・・マイ・レディ?」
「自分の屋敷だもの・・・いつ散歩してもいいでしょう?」
すぐに嘘だと分かってしまうのに、懸命に言い訳をしているシエルがかわいくて仕方ない。
「では、一緒に散歩の続きをして、お部屋に戻りましょうか?」
その言葉を聞くと、シエルは黙ったままイヤイヤと頭を左右に振る。
「散歩をされていたのでしょう?」
「・・・セバスチャンの意地悪」
シエルは顔をあげると、大きな青と紫のオッドアイの瞳は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうになっている。
「私には、嘘をつかないという約束を守らないマイ・レディがいけないのですよ」
黙ったままシエルは、セバスチャンの胸元に抱きついてくる。
「・・・ごめんなさい。でも、部屋には戻りたくないの・・・」
「困ったマイ・レディですね」
シエルの小さな背中を撫でながら、冷えてしまった身体を抱きしめる。
「一緒に・・・寝てもいい?」
「・・・今夜だけですよ」
「うん」
シエルを抱き上げると、ベッドサイドに座らせ、靴を脱がせる。
「夜ももう遅いですから、横になってください」
「・・・うん」
私が靴を脱ぎ、ベッドに横になるのをどうやら待っているようだ。
サイドテーブルに置いた燭台の灯りを消し、ベッドに横になると、シエルは甘えるようにセバスチャンの身体にすり寄ってくる。
・・・これは、何かに試練ですか、マイ・レディ?
「セバスチャンの身体って温かいのね」
「マイ・レディが廊下をこんな寒い時間に散歩されているから、身体が冷えてしまったのですよ」
セバスチャンはシエルの方を向き、胸元にシエルを抱きよせる。
「・・・・・・」
白い月明りの差し込む部屋はうっすらと明るい。
黙ってしまったシエルの顔を見ると、大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちている。
「マイ・レディ?」
「・・・・・・」
セバスチャンの白いシャツをきゅっと掴み、さくらんぼのようにつややかな唇を噛みしめ、泣き声を洩らさないようにしている。
「今夜のマイ・レディは、何も私に話してくれないのですね」
「・・・・・・」
「泣かないでください、マイ・レディ。あなたのそばには、いつも私がいます」
「・・・そばにいてね、セバスチャン」
薔薇色の頬に手を添え、上を向かせると、涙に濡れた瞳にキスをする。
「いつまでもあなたのそばにいます。私の前では、本当のマイ・レディでいてくださいね」
「・・・わかったわ」
「さあ、目を閉じてください」
シエルは言われるままに、瞳を閉じる。
小作りなブルネットの頭を撫でていると、シエルは落ち着いたのか穏やかな寝息が聞こえてきた。
今夜は、どんな夢を見たのでしょうね。
セバスチャンは、しばらく頭を撫でていると、シエルの小さな声が聞こえてくる。
「・・・お・・・とう・・・さま・・・あかあ・・・さ・・・ま・・・」
眦に涙が滲んでいる。
突然、奪われてしまった最愛の両親の夢をみたのですね。
まだ親に甘えたい年頃のシエルだが、『女王の番犬』となり、父親から引き継いだファントム社の社長として、ファントムハイヴ伯爵として、常に気丈に振る舞っている。
せめて私の前でだけは、本当のシエルでいて欲しい。
シエルに、安らぎと癒しを与えられる存在になりたい。
亡くなった両親の変わりになれるなどと思ってはいないけれど、シエルが安心していることが出来る存在でいたい。
一緒に寝るのは、たまにですよ・・・そう口癖のように言ってはいるけれど、こうやって私を頼って来てくれる事はとても嬉しい。
少しはシエルを安心させることができているのだと実感することができるから。
あとは、私の理性の問題だけで・・・。
こんなにかわいらしいシエルが横で、無防備に寝ているのを見るとつい邪な事を考えてしまう。
・・・私もまだまだですね。
セバスチャンはため息をつくと、シエルの華奢な身体を抱きしめ、目を閉じる。
せめて、夢の中ではシエルが望むような楽しい夢を見られるように願いながら・・・。

いつもの起きる時間になり、セバスチャンは胸元で穏やかな寝顔で寝ているシエルの頬に軽くキスをする。
気持ちよさそうに寝ているのに起こしてしまうのは、夜も遅かったことだし、かわいそうだろうと思い、ブランケットにくるむと、シエルを抱きあげ、他の使用人達が起きだす前にシエルを自分の寝室で寝かせておかなければと、静かに部屋をあとにする。
薄暗い廊下を歩き、シエルの執務室の扉を開け、寝室へと続く扉を開ける。
枕元にビターラビットがいくつも転がっているのを見ると、シエルも女の子なのだなと思う。
いつも、女の自分はいらないと言っているのに・・・。
セバスチャンは、シエルに気づかれないようにくすくすと笑うと、シエルをベッドの真ん中に寝かせ、布団をかける。
「もう少しおやすみください」
セバスチャンは、静かに寝室を出て行った。
自分の部屋に戻り、身なりを整えると、今や自分専用のキッチンとなったもう一つのキッチンへ入ると、バルド、メイリン、フィニ、タナカが座って待っていた。
「おはようございます、みなさん」
「おはよう、今日も寒いな」
とバルド。
「おはようございます、セバスチャンさん。今日の朝ご飯はなんですか?」
とにこにこと聞くフィニ。
「・・・お、おはようございますだ、セバスチャンさん」
となぜか頬を赤く染めているメイリン。
「ほっほっほっ」
と日本茶を飲んでいるタナカ。
「さあ、みなさん。自分の仕事に取り掛かってください。バルドは昨日壊したキッチンの修理を。フィニは、中庭の雑草抜き。トラップには気をつけてくださいね。メイリンは、今日は天気がいいので、たまっている洗濯物をお願いします。タナカさんは、・・・そのままでいいです」
「「「はーい」」」
3人は、それぞれの持ち場に移動していった。
「セバスチャン様」
「タナカさん、様はやめて下さいと言ったはずですよ」
「ほっほっほっ、つい癖で言ってしまうのですよ。今は、他の者もいないのですから、大丈夫ですよ」
「確かにそうですが・・・」
唯一、屋敷内でセバスチャンの正体を知っているタナカは時々、セバスチャンの事を「様」づけで呼ぶのだ。
伯爵家の次男であり、将来のシエルの夫となるセバスチャン。
「お嬢様の様子はどうですか?」
「時々、ご両親の夢を見ているようです。具体的にどんな夢を見たのかは言ってはくれませんが・・・」
「そうですか。お嬢様はあなたには心を許しているようですから、どうかお嬢様をいろいろな面で支えてあげてください。どうぞよろしくお願い致します」
タナカは深々と頭を下げる。
「頭をあげて下さい、タナカさん。私は、お嬢様を支え、癒せる存在になりたいと常に思っています。それは、誰かから強要されたからではなく、自分自身でそうしたいと思ったからです。今、お嬢様のそばにこうしていられることを私は、本当に良かったと思っています」
「ありがとうございます。お嬢様は、当主としてしっかりしなければと常に気を張っているようなところがありますので、あなたのように甘えることができる存在がいてくれる事が、何よりも救いになっていると思うのです」
「マイ・レディが、そう思ってくれているといいのですが・・・」
「自信を持って下さい、セバスチャン様。あなたが弱気になってしまったら、お嬢様を支える人がいなくなってしまいます」
「はい。わかりました」
「なんだか説教っぽくなってしまいましたね」
「そんなことはありません」
セバスチャンは、にっこりと微笑むとシエルの朝食の用意、アーリーモーニングティーの準備、新聞にアイロンを手早くかけていく。
台車にアビランド リモージュのなめらかな白い肌のようと形容される白磁の上に美しく描かれたバラが描かれたプティローズのティーカップとソーサーをのせる。
茶葉は、ハロッズのダージリンを用意する。
準備を整え、シエルの寝室へと向かう。
失礼致しますと声をかけ、扉を開けると、厚い蒼いカーテンを開ける。
「マイ・レディ。お目覚めの時間ですよ」
いつもはすぐに起きるシエルが布団から出てこない。
ブルネットの小作りな頭がもぞもぞと布団の中に隠れてしまう。
「マイ・レディ。身体の具合がよくないのですか?」
「・・・・・・」
「いつものマイ・レディらしくないですね。どうかしたのですか?」
「・・・なんでもないわ」
あきらかに不機嫌そうな声が布団の中から聞こえる。
何かあったのだろうか?
夜、寝る時は泣いていたけれど、すぐに寝てしまったのに・・・。
セバスチャンには、シエルが不機嫌になる理由がわからない。
「何か私がマイ・レディの気に障るようなことをしてしまったのでしょうか?」
「・・・・・・」
返事が返ってこない。
「もし、そうなら謝りますから、機嫌を直してください」
「・・・いいの。気にしないで・・・」
シエルは、布団から出てくると、薔薇色の頬が少し膨らんでいる。
やっぱり何かしてしまったのだ・・・。
セバスチャンは、新聞をシエルに手渡し、昨夜のことを思いだしながら、紅茶を淹れる。
「今朝は、ダージリンなのね」
「はい。本日は、ハロッズの物を。ティーセットは、アビランド リモージュのプティローズのティーカップとソーサーにしてみました。淡く可憐な薔薇がマイ・レディに合うと思いましたので・・・」
「・・・別にかわいくなくてもいいのに・・・」
むっとした口調のまま新聞をベッドに置くと、ベッドサイドに座り、足をぶらぶらとさせている。
「マイ・レディはかわいらしいですよ。紅茶をどうぞ」
「・・・ありがとう」
シエルは、セバスチャンと目を合わせず、ソーサーを受け取ると、香りを楽しみ、一口のむ。
いつもなら何か感想を言うのに、今日はむっとしたまま何も言わない。
一体、何をしてしまったのでしょうか、私は・・・?
シエルが紅茶を飲んでいる間に、衣裳部屋に入り、今日のドレスを選ぶ。
思い当たる事が全くない。
いつもと変わらない朝のはずなのに・・・一体、何が気に入らなかったのだろう?
こんな不機嫌なシエルを見ることのないセバスチャンは戸惑う。
まるで、ヤキモチを妬いている時のようだけれど、ヤキモチを妬かれるようなこともしていないと思うのだが。
ドレスを選び、それに合わせた靴下や靴、ヘッドドレスを選び終わると、シエルを呼びに行く。
「マイ・レディ。そろそろ着替えましょうか?」
「わかったわ」
ソーサーを受け取ると、台車に乗せ、先に衣裳部屋へと入ったシエルの後をついて行く。
ネグリジェを脱がせ、淡いピンク色のペティコートを着せると、赤いオーバードレスを着せる。
膝下のオーバードレスのウエストから左右に分かれた部分にはフリルがつき、その下に着た淡いピンク色のペティコートが見えるようになっている。
サーモンピンクのリボンを斜め前で結ぶ。
白い靴下をはかせ、黒の編上げのブーツをはかせる。
ドレッサーの前に座らせ、髪を梳かすと、サイドの短い髪をそのままに赤のフリルとピンクのリボンが左右についたヘッドドレスをつけると、鏡ごしにシエルに笑いかけるが、ぷいと横を向かれてしまう。
一体、どうしたらいいのでしょうね。
セバスチャンは苦笑いしながら、朝食の為、シエルと一緒に食堂へと向かった。

今日は、朝までセバスチャンは一緒にいてくれたのかしら?
シエルは、スコーンを咀嚼しながら考えていた。
確か昨夜は、久しぶりにお父様とお母様の夢を見たら急に寂しくなって、セバスチャンの部屋に行ったはず。
セバスチャンの温かい身体に包まれて眠っていたはずなのに、朝、気が付いたら自分のベッドで眠っていた・・・。
いつの間に、セバスチャンは私を部屋に戻したのかしら?
もしかしたら、私が寝てしまったらすぐに部屋に連れて行ったのかもしれない。
朝まで、セバスチャンと一緒にいたかったのに。
・・・でも、これって私の我儘よね。
困ったような笑みを浮かべているセバスチャンをちらりと見ると、シエルは内心ため息をつく。
私が唯一、甘えられる人。
心を許し、信頼している人。
セバスチャンは、いつも一緒に寝るのはたまにですよと言うけれど、部屋に行くと必ず一緒に寝てくれる。
それに甘えてしまっている私。
セバスチャンの身体の温かさが、匂いが私を安心させてくれる。
だから、私が目を覚ますまで、一緒にいてほしい。
今日みたいに、気が付いたら自分の部屋にいた事は、何回かあったけれど、それだと朝まで一緒にいてくれたかどうかがわからない。
目が覚めた時に、セバスチャンの身体の温かさや匂いを感じていたいのに。
朝まで一緒にいてくれたのか聞きたいけれど、恥ずかしくて聞くことができない。
ついもやもやした気分になって、あんな態度をセバスチャンに取ってしまったけれど。
セバスチャンが困っているのがわかっているのに、いつもの私に戻れない。
どうしてかしら?
楽しく色々な事を話したいのに。
こんな私は、嫌いだわ。
シエルは、食事の手を止め、席を立つ。
「マイ・レディ。お食事はもういいのですか?」
「・・・もういいわ。執務室で仕事をしているから・・・」
セバスチャンの顔をみたいのに、今の自分が恥ずかしくて、嫌いで、見ることができない。
逃げるように、食堂をあとにする。
マイ・レディはどうしてしまったのでしょうか。
思い当たることのないセバスチャンは、途方に暮れる。
どうしたら、いつものシエルにもどってくれるのだろう。
10歳とは言え、女心は複雑なのですね。
深々とため息をつく。
いつもなら美味しいと言って、食べてくれる朝食も半分ほどしか食べていない。
こんなこと誰にも相談できないし、どうしたらいいものか。
しばらく様子をみるしかないですね。
セバスチャンは、台車に食器をのせ、キッチンへと運ぶと、後片付けを始める。
この後は、家庭教師としてシエルに勉強を教える予定になっていた。
かわいらしい笑顔がみたいです、マイ・レディ。
昼食の下ごしらえを済ませると、シエルのいる執務室へと向かう。
扉をノックするが、返事がない。
失礼致しますと声をかけ、扉を開けると、シエルの姿はなかった。
今度は、逃走ですか、マイ・レディ。
念の為、寝室を見るが姿はない。
シエルの行きそうな図書室、遊戯室、地下の射撃場シエルの姿を探していくが、どこにも姿がない。
おかしいですね。
シャンデリアの輝く玄関ホールを抜け、外にでる。
シエルのお気に入りの薔薇園へ行くと、ベンチに一人でぽつんと座っているシエルの姿を見つける。
静かに近づいて行くと、シエルは途中で気配に気づいたのか、うつむいてセバスチャンの方を見ないようにしている。
「今日のマイ・レディはどうしてしまったのですか?」
「・・・私に構わないで。私の我儘なんだから・・・」
小さな囁くような声でシエルは答える。
「我儘ですか。確かに、今日のマイ・レディは我儘ですね。一体、どうしたと言うのですか?」
シエルのそばに立つと、片膝をつき跪くと、絹糸のようにさらさらとした長いブルネットの髪で隠れてしまったシエルの顔を見つめる。
「・・・だから、私に構わないで。私だって、我儘が言いたいときだってあるのよ」
「マイ・レディはファントムハイヴ伯爵家の当主と言っても、まだ10歳の子供ですからね」
薔薇色の頬が少し膨らむ。
「・・・・・・」
「おや、気に障りましたか?本当の事を言ったまでですよ。いつまでそうやって、不機嫌な態度を取り続けるおつもりですか?」
「・・・・・・」
「今度は何も話さないのですか?マイ・レディはいつからそんなに我儘になってしまったのですか?」
「・・・・・・」
「何も話さないのであれば、マイ・レディの言うように貴女の相手をするのは、やめましょう」
セバスチャンは立ち上がり、膝に付いた泥を払うと、シエルに背を向け歩きだす。
「・・・行っちゃイヤ」
シエルの小さい声が聞こえるが、聞こえないふりをしてそのまま歩いて行く。
私が甘やかし過ぎてしまったのが、いけないのでしょうか。
シエルの我儘ならなんでも聞いてあげたいと思うけれど、この状態ではお手上げだ。
少しかわいそうな気もするけれど、ここでシエルの言うことを聞いてしまったら、シエルの為にもよくないだろう。
私は、シエルの家庭教師でもあるのだから、しっかりしつけもしなければいけない立場なのだから。
「・・・セバスチャン。行っちゃイヤ・・・」
涙声になっているシエルの声が聞こえないかのように、背を向けたまま歩いて行く。
セバスチャンが行ってしまう。
私の我儘のせいだわ。
いつもなら、すぐに抱きしめてくれるのに。
でも、どうしていいのかわからない。
一緒に寝てほしいと言うこと自体が、すでに我儘なのに、朝までそばで一緒に寝て、私を安心させてほしいなんて、言えないもの。
そんな子供みたいな我儘言えないわ。
朝までそばにいてくれたという証がほしいなんて。
「・・・セバ・・・」
涙で滲んでセバスチャンの背中がよく見えない。
うつむくと、大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙が、白く小さな手の甲にこぼれ落ちる。
私はいつからこんなに我儘になってしまったのかしら?
セバスチャンにしか、甘える事ができなくなってしまったから?
本当の自分を見せる事ができなくなってしまったから?
でも、いつかはセバスチャンと離れてしまうのに。
そう心に決めているのに。
セバスチャンの優しさに甘え過ぎなんだわ。
もうセバスチャンの部屋に行くのはやめよう。
きっとセバスチャンも心のどこかでは、迷惑に思っているんだわ。
優しいからいつも一緒に寝てくれるだけで。
私は、ファントムハイヴ伯爵家当主、シエル・ファントムハイヴ伯爵なのよ。
早く一人前の『女王の番犬』にならなければ、いけないのだから。
いつまでも甘えていてはいけないのよ。
誰にも甘えずに、一人で生きて往かなければいけないのだから。

かわいそうなことをしてしまっただろうか。
セバスチャンは薔薇園のアーチの下で立ち止まり、考えていた。
いつもはしっかりしているシエルがあんなにも不機嫌になり、自分に我儘を言うなんて、考えてみたら珍しいことなのに。
シエルの私への甘えなのかもしれない。
泣くのを我慢しながら昨夜、自分の部屋に来たシエルの姿を思い出す。
布団の中で、泣き声を殺して泣いていたシエル。
ビターラビットが散乱していたベッド。
自分を頼って甘えてくれるシエルを愛おしいと思う。
やはりきちんと話しを聞くべきだろう。
セバスチャンは、薔薇園の中へと戻っていく。
シエルはベンチに座ったまま、うつむいている。
ポケットからハンカチを取り出すと、目と手を拭っている。
・・・泣いていたのか。
「マイ・レディ・・・」
セバスチャンが声をかけると、シエルは一瞬身体をぴくりと震わせる。
が、すぐに立ち上がると、セバスチャンの横を走って通り過ぎてしまう。
なぜだろう、今、とても大切なタイミングを逃してしまったような気がする。
取り返しのつかない事をしてしまったような・・・。
シエルの跡を追い、屋敷の中に入ると、シエルは大階段を上り、執務室の方へ向かっていく。
セバスチャンは急いで、執務室へ向かう。
扉をノックすると、
「・・・どうぞ」
と声が聞こえる。
失礼致しますと部屋に入ると、シエルが執務室で会社の書類のチェックを始めていた。
「何か用かしら、セバスチャン?」
そこにはいつものシエルがいた。
「マイ・レディ。先程の事をきちんと話しましょう」
「なぜ?」
シエルは小首を傾げて、大きな青と紫のオッドアイの瞳を細め、にっこりと微笑んでいる。
「マイ・レディの本当の気持ちを知りたいからです。私の前では、本当のマイ・レディでいてくださいと約束しましたよね?」
「そうね。でも私は、話すことなんてないわ。いつまでも、子供の我儘に付き合わなくていいのよ、セバスチャン」
「しかし、マイ・レディ。私は・・・」
「この話はもうお終いよ。今日は、会社の書類のチェックをするから、セバスチャンも自分の仕事に戻って」
シエルは、手元の書類に視線を戻す。
こうなってしまうと、シエルは何も話してはくれないだろう。
「かしこまりました」
セバスチャンは恭しく一礼すると、執務室をあとにする。
やはりあの時、きちんと話しを聞くべきだったのだ。
・・・シエルは、私に心を閉ざそうとしている。
私は、シエルのサインを見逃してしまったのだ。
悔やんでも悔やみきれない。
どうしたらいいのだろう。
セバスチャンは、唇を噛みしめる。
シエルの心の支えになりたいと、安らぎを与える存在でありたいと思っていたのに。
このままでは、シエルはどんどん自分の殻にこもってしまうだろう。
誰にも、本当の自分を見せず、一人で生きて往こうとするだろう。
なんてことをしてしまったのだろう。
たった些細なことだったはずなのに。
それが、こんなことになるなんて・・・。
セバスチャンは、赤絨毯の敷き詰められた廊下をとぼとぼと歩いて行く。
そのまま地下の射撃場に行くと、射撃の練習を始める。
自分の愛する女性を子供扱いした挙句、自ら突き放すような事をしてしまった。
シエルの事をわかっているつもりでいたけれど、何も分かっていなかったのだ。
もう一度、シエルに信用してもらえるようにするにはどうしたらいいのだろう。
このままでは、私が不安に思っていたことが現実になってしまう。
シエルが私から離れていってしまう。
それだけは、避けなければ。
シエルが普通どおりにしているのであれば、私もまたシエルに普通通りに接しよう。
そして、少しずつ信頼を取り戻していくしかないだろう。

昼食もほとんどシエルは手をつけず、執務室へと戻って行ってしまった。
「お嬢様は、一体どうしちまったんだ?」
バルドが心配そうに声をかけてくる。
「・・・お嬢様も悩む事があるのでしょう」
セバスチャンは後片付けをしながら、ディナーはどうしようかと考える。
シエルの好きな物を作ったら、少しは食べてくれるだろうか?
アフタヌーンティーのスイーツも好きな物を用意しよう。
あまり食べないのも、何かあった時に本来の力を発揮することが出来なくなってしまう。
執事として、シエルの体調管理も大事な仕事。
しかし、セバスチャンの気持ちとは裏腹にシエルは、アフタヌーンティーは紅茶だけ、夕食もほとんど手をつけることはなかった。
こうなったら、とことんシエルに付き合いましょう。
入浴の為、シエルの執務室へ向かう。
「マイ・レディ。入浴の準備をしてもよろしいでしょうか?」
「・・・お願い」
シエルは、本から視線をあげることなく答える。
猫足のバスタブにお湯をいれ、用意してあった薔薇の花びらを浮かべ、薔薇のオイルもいれる。
少しでもシエルの気持ちが、やわらいでくれたらいいのだけれど。
上着を脱ぎ、シャツの袖をまくる。
「マイ・レディ。用意ができましたよ」
「わかったわ。今、行くわ」
シエルは、本にしおりを挟むと、ローテーブルに置く。
ヘッドドレスをとり、髪を前に流すと、オーバードレスの背中のボタンをはずし、ペティコートを脱がす。
白磁のように透けるような滑らかな肌が露わになると、胸が高鳴ってくる。
何度、入浴の手伝いをしてもいまだになれる事がない。
お湯を身体にかけると、シエルは猫足のバスタブに華奢な身体をつける。
薔薇の花びらが浮かんでいるのを見て、手ですくって遊んでいるが、何も言ってこない。
「髪を洗ってもよろしいですか?」
「うん」
絹糸のように手触りのいい長いブルネットの髪にお湯をかけ、薔薇の香りのするシャンプーをつけると、いつものように丁寧に洗っていく。
「薔薇の花びらは気にいって頂けましたか?」
「・・・うん」
シエルは、大きな青と紫のオッドアイの瞳を閉じてしまう。
私と話す事を拒絶しているようにも見える。
「泡を落としますよ」
「うん」
泡をシャワーで洗い流すと、トリートメントを丁寧に揉みこんでいく。
「先に身体をあらってもよろしいですか?」
「・・・うん」
シエルの髪を上でまとめると、シエルはバスタブの中で立ちあがる。
ボディーソープをスポンジにつけると、泡立てシエルの細い腕を洗う。
「・・・なんで今日はスポンジで洗うの?」
いつもは泡を取り、素手でシエルに触れて身体を洗っているからだろう。
「マイ・レディは直接、私に触れてほしくないのではないかと思ったのですが、いつも通りの方がいいですか?」
「・・・いつも通りでいいわ」
「かしこまりました」
スポンジから泡を取ると、細く白い首に泡をつけ、撫でるように洗っていく。
「・・・く、くすぐったい・・・」
シエルはセバスチャンの手から逃れるように、身体を捩る。
「では、スポンジで洗いますか?」
「・・・スポンジはイヤ。セバスチャンの手がいいわ」
「それでは、くすぐったいのを少し我慢してください」
胸に泡を伸ばし、撫でるように洗う。
淡いピンク色の果実が目に入り、手のひらで、触れるか触れないかの愛撫のような洗い方をするとシエルの華奢な身体がぴくりと震える。
「どうか致しましたか、マイ・レディ?」
「な、なんでもないわ」
明らかにシエルは、いつもと違う感覚に戸惑っているようだ。
反対の淡いピンク色の果実にも、愛撫ともとれるような洗い方をする。
大きな青と紫のオッドアイの瞳がうっすらと潤んでくる。
身体は正直なようですね。
腹部、小さな背中、小さなヒップを洗い、細い脚を洗う。
そのたびにシエルの身体は、ぴくりとかすかに震える。
かわいいですね、マイ・レディは・・・。
せっかく入浴の手伝いをしているのですから、私の手の感覚をその身体に刻みつけさせて頂きましょう。
シエルは、いずれ私の妻になるのですから。
夫になる私の目の前に、未成熟な果実のような身体を露わにしているシエルもいけないのですよ。
シャワーで身体の泡を落とし、長いブルネットの髪のトリートメントを洗い流していく。
薔薇色の頬が赤く染まり、大きな青と紫のオッドアイの瞳がしっとりと潤んでいる。
許されるのならば、このままベッドに連れて行きたいくらいだ。
「もうでたいわ」
「かしこまりました」
ふかふかのバスタオルでシエルの身体を包み込むと、シエルはどこかほっとしたような表情をする。
濡れたブルネットの髪を乾いたタオルで丸め、淡いブルーのシフォンのネグリジェを着せると、そのままドレッサーの前に座らせ、濡れた髪の水分を拭き取り、櫛で梳かしていく。
「すぐにおやすみになりますか?」
「・・・少し本を読んでから寝るわ」
「かしこまりました。何かお飲物をお持ち致しましょうか?」
「・・・いらないわ」
シエルは椅子から立ち上がると、執務室へ向かい読みかけの本を手に、寝室へと戻ってくる。
ベッドに入り、サイドテーブルの燭台の灯りの下、本を読み始める。
セバスチャンは、浴室の片付けをすると、
「おやすみなさいませ」
と、恭しく一礼すると、シエルの寝室をあとにする。
なんで、今日はいつもと違う感じがしたのかしら?
セバスチャンに身体を洗ってもらうようになってから、いつもくすぐったくて仕方がなかったけれど、今日はくすぐったさとは違う感じがした。
あれは、何だったんだろう。
・・・身体が熱い。
シエルは、本をサイドテーブルに置くと、近くに転がっていたビターラビットを手にすると、胸元に抱きしめる。
これで、いいのよね。
セバスチャンと一線を置くくらいの方がきっといいんだわ。
いつかは離れてしまうんだもの。
甘えてばかりいたら、セバスチャンから離れられなくなってしまう。
自分にとって、セバスチャンがいなくてはならない存在になってしまうのは、許されないことなのだから。
セバスチャンは唯一、私の甘える事ができる存在。
心を許すことができる存在。
でも最初から、そんな存在を作ってはいけなかったのよ。
『女王の番犬』になると決めたあの時から。
だから、これでいいの。
私は、早く一人前の『女王の番犬』になることだけを考えればいいのよ。
一人前になった時が、セバスチャンとの別れのときなのだから。
シエルは、サイドテーブルの燭台の灯りを消し、ビターラビットと共にベッドにもぐりこむ。
私は、一人でも生きて往ける。
誰にも頼らなくても、生きて往けるわ。
甘えや弱さは、命とりになる。
今ならまだ傷つかずに離れることができるわ。
ひと時だけでも、両親の変わりに甘える事ができる存在がいただけでも、私は幸せだわ。
セバスチャンがいなくても、私は大丈夫。
シエルは、心の中でまるで呪文のように、自分に言い聞かせるように繰り返す。
これ以上、心を許してはいけない。
これ以上、甘えてはいけない。
これ以上、セバスチャンを求めてはいけない。
これ以上、私の運命にセバスチャンを巻き込んではいけない。
心なんてなくなってしまえばいいのに。
もう「子供」の私は、両親と一緒に死んでしまったのだから。
心も一緒に死んでしまったと思えばいい。
そうしたら、きっと楽になれるわ。

その後、数日間シエルはいつもと同じように過ごしているように見せていたが、私からみたら明らかに自分を偽っているようにしか見えなかった。
食事も相変わらず、あまりとらず、タナカがシエルの身体を心配して、話しかけてもにこにこと笑い、「何もない」と答えていた。
会社の書類のチェックや勉強、剣術、射撃、格闘技・・・いつも通りにシエルはこなしていく。
みんなには、いつもと変わらない笑顔を見せているけれど、目は決して笑っていない。
頻繁に来ていた私の部屋にも夜、全く来なくなった。
ちゃんと夜、眠る事ができているのだろうか?
あんなに悪夢や両親の夢を見て、泣いていたシエルが急に、眠れるようになったとは思えなかった。
いくら気が強く、芯のしっかりしたシエルでも、限界は近いのではないだろうか。
セバスチャンは、何も言うことができず、ただいつも通りに接して、見守ることしかできない自分を歯がゆく感じていた。
入浴のたびに、シエルの華奢な身体が小さくなっていくように感じる。
それでも、シエルは何も言おうとはしなかった。
黙って、身守り続けるのも限界だった。
セバスチャンは、明日の朝食の下ごしらえをすませ、屋敷の閉じまりを確認し、シエルの寝室へと向かう。
シエルが寝ているのか確認する為に。
執務室の扉をゆっくりと開け、寝室へと続く扉を開けようとすると、中からかすかな物音と声が聞こえる。
「・・・イヤ・・・わたしに・・・ちかづかないで・・・」
誰か侵入者でもいるのだろうか?
でも、何者かが中に入った形跡は全くない。
寝室の扉を静かに開けると、布団を頭からかぶり、ベッドの隅に座り込んでいるシエルの姿があった。
部屋の中を見るが、誰もいない。
「マイ・レディ?」
「・・・だ、だれ?・・・ちかづかないで・・・」
今にも消えてしまいそうな小さな声で言う。
「セバスチャンです。貴女の執事の・・・」
ゆっくりと近づき、シエルに触れようとすると、小さな手で振り払われる。
「・・・さ、さわらないで・・・わたしに・・・さわらないで・・・」
布団の中でシエルの身体はガタガタと震えている。
「マイ・レディ。どうしたのですか?」
燭台をサイドテーブルに置き、ベッドサイドに座る。
「だれも・・・わたしに・・・ちかづかないで・・・」
胸元にはビターラビットを抱きしめている。
「何をそんなに怖がっているのですか?」
「・・・こわくないわ・・・わたしは・・・ひとりでも・・・だいじょうぶなの・・・」
「そんなに震えているのにですか?」
「・・・わたしは・・・ひとりでも・・・いきていけるの・・・」
「なぜ、頑なに私を拒むのですか?」
「・・・だれにも・・・あまえては・・・いけないの・・・よわいところを・・・みせては・・・いけないの・・・」
「私には本当のマイ・レディを見せてくれると約束したのにですか?」
セバスチャンは、靴を脱ぐと、少しずつシエルに近づいて行く。
「・・・いまなら・・・きずつかずに・・・すむから・・・わたしは・・・ひとりで・・・じょおうのばんけんに・・・ならないと・・・いけないの・・・」
「どうして今なら、傷つかずにすむのですか?」
「・・・あまえていたら・・・わたしは・・・セバスチャンから・・・はなれられなくなるから・・・ずっと・・・そばに・・・いてほしくなってしまうから」
かぶっていた布団をゆっくりとシエルの頭から降ろし、うつむいているシエルを抱きしめる。
久しぶりに抱きしめたシエルは、思っていた以上に痩せていた。
「私には、甘えていいのですよ。本当のマイ・レディを見せていいのですよ。私は、ずっと貴女のそばにいるのですから・・・」
「・・・だめよ・・・ずっといっしょに・・・いられない・・・」
「ずっと一緒にいる事ができる魔法の呪文を私は持っているのですよ。今はまだ、言うことができませんが・・・私を信じてください。そして、また私を頼ってください。今のマイ・レディを見ているのは、とても辛いです」
「・・・どうして・・・セバスチャンが・・・つらいの・・・」
うつむいていたシエルは顔をあげると、大きな青と紫のオッドアイの瞳は涙に濡れ、燭台の灯りを受け、2色の宝石のように輝いている。
「シエルが私にとってかけがえのないとても大切な存在だからですよ。シエルの変わりはこの世界にはいません。今までのように、私を頼って、甘えてシエル・・・」
涙に濡れる頬に、目元にキスをする。
「・・・たよっては・・・ダメなの・・・あまえては・・・ダメなの・・・だって・・・わたしの・・・わがままだもの・・・」
「我儘ではありませんよ。私は、シエルが甘える事ができる存在でいたいのです。そして、シエルを癒すことができる存在でいたいのです。私が今、一番望んでいることです。シエルも私にそうあってほしいと望んでいるのでしょう?」
「・・・だって・・・わたしの・・・わがままだもの・・・」
大きな青と紫のオッドアイの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「シエルの我儘であり、私の我儘ですよ。ふたりの我儘なのですから、お互いにいいと思っていれば、我儘にはなりません」
「・・・ほんとうに?」
「本当ですよ。お互いがお互いに望んでいる事です。我儘ではありませんよ」
「・・・めいわく・・・ではないの・・・」
白い頬にこぼれ落ちた涙を舌ですくい舐める。
「迷惑だなんて思った事は一度もありませんよ。私は、シエルには嘘は吐きませんよ」
「・・・ほんとうに?」
「はい。ですから、シエルも私に嘘を吐いてはいけませんよ」
「・・・うん」
絹糸のようにさらさらとした長いブルネットの髪を撫でるように梳かすと、シエルは安心したように大きな青と紫のオッドアイの瞳を細める。
「では、この間、朝から機嫌が悪かったのはなぜですか?」
「・・・朝までセバスチャンがそばで一緒に寝てくれていたのか、わからなかったから。気が付いたら、自分のベッドで寝ていたから、セバスチャは私が寝た後、すぐに私を部屋に連れて行ったと思ったの・・・。朝まで一緒にいたっていう証が欲しかったの」
シエルは白い頬を薔薇色に染めて、セバスチャンの紅茶色の瞳をじっと見つめる。
「そう言ってくだされば、ちゃんとお答えしましたよ。あの日も朝まで一緒のベッドで寝ていましたよ。あまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、起こさない方がいいと思ったので、起こさずにお部屋に連れて行ったのですよ」
「・・・だって・・・聞くのがはずかしかったんだもの・・・」
「シエルはかわいいですね。それでは、今度からは私が起きた時に、シエルに声をかけるようにいたしましょう。それでよろしいですか?」
「・・・うん」
「聞きたい事があれば、恥ずかしがらないで聞いてください。今回のように、シエルに避けられてしまうのは、たえられません」
セバスチャンは、シエルの華奢な身体を強く抱きしめる。
「・・・わかったわ」
「それと、私から離れようとしてもダメですよ。私が、シエルを離しませんから・・・」
「・・・なぜ?」
シエルは小首を傾げて、セバスチャンを見つめる。
「シエルを誰よりも愛しているからです」
さくらんぼのようにつややかな唇に、そっと自分の唇を重ねる。
柔らかな唇の感触が心地よくて、何度も唇を合わせるたけの甘い口づけを交わす。
お互いの瞳に、お互いが映っているのをじっと見つめ合う。
「・・・セバスチャンの唇って、柔らかいわ」
「シエルの唇も柔らかいですよ」
見つめ合い、微笑み合う。
久しぶりにシエルの笑顔を見たような気がする。
「シエル、夢の時間は始まったばかりですよ。今夜は、ゆっくりと眠ってください」
「朝まで一緒にいてくれる?」
「もちろんです」
サイドテーブルの燭台の灯りを消すと、シエルを片手で抱きしめたまま、布団を整え、二人でベッドに横になる。
「・・・これは・・・夢なの?」
「夢、かもしれませんね」
セバスチャンの胸元に顔をうずめ、自分を安心させてくれる温かさと匂いに包まれシエルはゆっくりと瞼を閉じる。
小作りなブルネットの頭を撫でながら、キスをする。
「・・・セバスチャン、ずっと・・・私のそばにいてね」
夢の中でなら、何も気にせず、本当の自分の気持ちが言えるわ。
「いつまでもシエルのそばにずっといますよ。愛しい私のシエル」
セバスチャンの声が、力強い鼓動がとても心地いい。
やっと私の唯一、安心できる場所に戻れた。
「・・・愛しているわ、セバスチャン」
「!?」
セバスチャンは、自分の耳を疑った。
今、聞こえたのは本当にシエルの声だろうか?
「私も愛していますよ、シエル」
きっとシエルの口からちゃんと聞くことができるのもそう遠くないだろう。
シエルの成長は、私が思うよりもずっと早いのだろう。
額にキスをすると、セバスチャンもシエルの華奢な身体を強く抱きしめ、瞼を閉じる。

翌朝、セバスチャンは起きるとすぐにシエルに声をかけたのは、言うまでもない。

END


「2月3日のSentimentalisme」素敵な頂き物♥
    「フォレ・ノワール」様よりの素敵な頂き物更新しました(^-^)
    セバシエR-18ファントムハイヴ家の節分は・・・
    ある文学小説を参考にしています。
    
    白様ありがとうございました。
    

        「2月3日のSentimentalisme」
<一匹の鬼が厩舎の前で雨闇を遣り過ごしていた。
鬼と云っても赤鬼青鬼と云った聊か剽軽さを感じる様な存在ではなく、一種の負の霊体とも云うべきものだった。が、霊体でも節分の豆で追われるのが嫌なのには違いなかった。
鬼は揺曳しながらイギリスの夜に辿り着いた。雨止みを待っても、如何するという当てはなかった。>


「ドラジェ、でございますか?」

 セバスチャンは造り付けになっている食器棚に白い皿を直しながら、入り口のシエルを振り返った。

 階下へ来ては、いけませんよ。

 そんな諌止は小さな一歩に軽々と乗り越えられる。セバスチャンは手にした皿を洗い籠に戻して、シエルのほうへ歩み寄った。

「行事だ」

 アームバンドを外して袖を伸ばし、主人の前にしゃがむ。

「ドラジェを、撒く…?」
「いいや」

 毎年2月3日に、自分の故郷では豆撒きをして邪を払う。
 タナカはシエルにそう教えて、元気よく豆を撒かせたあと、年の数だけ食べさせていたのだが、いつしかそれがドラジェを食べる日、という甘い行事に変わっていたのだった。

 今日は、ドラジェの日だ。

 そう言うシエルの前で、セバスチャンは、ふむ、と考えながら解けかかっているリボンタイを直してやった。

「夜にご年齢の数だけドラジェを召し上がるというのは、少々多いかもしれませんね」

 結婚式で配られるドラジェには、「幸福」や「健康」といった意味がある。無病息災を願う意味で節分の豆と似ているが、食べ過ぎになってしまっては逆効果だろう。

「じゃあ、他のものでもいい」
「…わかりました。ご用意致します」

 シエルを見送りながら、セバスチャンは肩を竦めた。

 ドラジェ、遠ざかる肢体、小さな臀部、ねだる顔。
 オーバーラップする心象に、歪む口元を押さえる。


<此処に居れば、豆の音は追いかけて来ない。
安心すると、雨天雲脚の下、此国では人々がどんな暮らしをしているのだろうかと覗いてみる気になった。
厩舎や温室や花壇が島嶼の様に控えている中に、城の様な屋敷があった。屋敷は静かだったが、夕餉の時刻が迫ると食堂らしき部屋に明かりが灯され、人々の話し声が聞こえてきた。>


「坊ちゃん、豆撒きの準備が出来ました」

 食後の紅茶を飲み終えたところで、セバスチャンが厨房から戻ってきた。
 二つの器を乗せた銀のトレイを、恭しくシエルの前に置く。器はマイセンクリスタルのグラスで、赤いほうには炒った大豆が、青いほうには金平糖が入れられていた。

「お召し上がりになる分と、鬼を払う分でございます」
「撒くのは、いい」

 シエルはグラスのエングレーブに手を触れながら、少し目を逸らして言った。

「折角ですから…」
「では、タナカに撒かせてやれ。僕は…いい」

 邪を払って、お前が出て行ったら、困る。

 そんな声が聞こえたように思ったのは、過信というものだろうか。

 セバスチャンは、花模様をなぞる手にそっと自分の手を重ねて囁いた。

「…では、金平糖だけお召し上がり下さいませ」
「…」
「お口に入れて差し上げます。福が来るように」
「…っ」

 手袋を外し、グラスの中身を持ち上げる。シエルは観念して目を閉じ、僅かに唇を弛緩させた。

「ん…っ」

 唇に触れたのは、指よりも柔らかいものである。

 セバスチャンが咥えた甘い一粒を舌で受け取り、唇を塞がれながら味わう。

「…はぁっ…」
「もう一粒」

 目を開けたシエルの前で、唇の月牙に白い金平糖を咥える。

(…11…10…9…)

 頭の中で、残りの数を数えた。

 口付けを交わしながら、過去の一つひとつが慰められている、そんな気がした。




<鬼は窓から中の様子を覗き、はっと首を縮めた。
身体の中を、霆撃が走り抜けた様に思った。豆をぶつけられるより、大きく動揺した。

自分と同じ負の者、口に咥えた朏魄のような金平糖。

鬼は身体を伸ばして、もう一度中を見た。>


 最後の一つはなかなか溶けようとしなかった。

 ゆっくりと、そのごつごつした感触を味わう。ごつごつが滑らかになり、ざらざらになり、舌の上に散る。

 セバスチャンはシエルの前に跪き、ズボンの前を開けて愛撫を始めた。

「ん…あっ…」

 柔弱に血が巡り、固く張りつめ、舌の上で白いものを散らす。

「良い春を迎えられました」
「馬、鹿…」
「ふ…彼の国では、遊女に太巻きを咥えさせる猥褻な遊びもあった、とか…、全ては、『春を迎える』ためでございましょう」
「…」

 シエルはふと、何のために節分に豆撒きをしたいと願ったのかと考えた。

 ドラジェが、楽しみだったからか。

 最初は、そうではなかった。

 恐らく、家の中に悪いものが入ってこないように、お父様とお母様に幸福が訪れるように…そう思って始めたのだ。

「部屋に行く。お前は厨房を片付けてから来い」
「御意」

 シエルが出て行くと、セバスチャンは「さて…」と呟いて、窓の一つを勢いよく開けた。


―豆撒きをしないと、本当に鬼がやって来るのですね
―…
―…
―何故…
―しなければ、飢え死にします
―其の事ではない…
―…も、なければ飢えます…

「覗かないのならば、其処で夜明かしをされても構いませんよ。当家の家令があとで、豆を撒くかもしれませんが」

 セバスチャンは微笑んで、窓を閉めた。

 鬼は肩を竦め、月の無い空を見上げた。



「遅かったな」
「鬼がおりましたので」

 怪訝そうなシエルの表情に覆い被さり、再びズボンのベルトに手をかける。

「…セバス、チャン…」

 シエルの口の中にはまだ、甘味が残っていた。

「は…ぁ…」

 糸を引く唇を見つめ、燕尾服の襟を両手で掴む。

「僕に福が来るようにと…言ったな」
「…ええ」

 僕も、お前の幸福を願っていいか、と。

 笑われる気がして、口には出さずに、そっと、黒い肩に額をつけた。

「…いっぱい、しろ」
「坊ちゃん」
「…お前の、好きなように」
「…できませんよ、そんな乱暴には」

 場を弁えず食堂で始めた、自分の性急さをそっと閉め出す。

「ふ…乱暴なのが、好きか?」
「貴方が乱れ、悶えて下さるのが一番です」

 服を脱がせ、雪白の肌に齢の数よりも多い口付けを落とす。
 その舌で指先を濡らし、身体の奥を優しく掻き混ぜる。

「あ、ん、ん…っはぁ、そんな…っ、や…あっ」
「指だけで、こんなに…?」

 シエルが苦しくないように、丁寧に秘部を押し広げる。

 左脚を持ち上げ、左胸の突起を弄びながら自分自身を挿入する。
 突き上げながら、左の大腿でシエルのそれを圧迫する。
 難しい体位だが、セバスチャンの逞しい性器はしっかりとシエルの奥に届いていた。

「っあ、あ、い、ひっ…く、セバス、チャン…ッ!す、ご…りょうほ、あっ…!」
「相変わらず狭いですね…こんなにすると、裂けてしまいそうだ…ほら」
「ああっ…、か、くど、変えちゃ…っ!そこ、もう、っく…!」
「ココがお好きなのでしょう……っふ…狭いのは変わりませんが…この先端が少し、ご立派になられたようですね?」
「やっ…そ、こ、ぐりぐりしな…で…っ」
「ぐりぐりされて、こんなに熱くなっているくせに…、嗚呼、抜くときと突くときと、どちらも気持ちいいという顔ですね…」
「そ、んな…こと、ああっ…」
「ふ…いつからそんなに、淫乱になられたのです?ほら、また、そんな顔を…」
「あっ、あっ、や、め、そんなに、強…、セバッ…い、いく、いく…っ」

 胸の突起と身体の奥、自分自身を同時に刺激され、シエルは先程より多量の白い液体を放出した。

 自分の中に、どくどくとセバスチャンの精が注がれているのを感じた。

(僕に幸福が訪れるときは、いつも、こうして分かち合えればいい。…)

 セバスチャンは自分自身を抜かないまま、シエルの身体に沈み込んだ。


 鬼の行方は、誰も知らない。


END

image:芥川龍之介『羅生門』

(2012/02/01 UP)

「セカイの調律した祈り」素敵な頂き物
素敵なセバシエ小説頂きました(*^_^*)
TLで書きかけていらっしゃったので、「読みたいです」とオネダリしまして、
死渡幻夢様が書いて下さり、ちゃっかりと頂きました。
相互リンクして頂きまして、ブログに載せる許可も頂きまして、更新させて頂きます。


セカイの調律した祈り 1 セバシエ ツイッターUP済み
________________________________________


九条静音様に捧げます。九条様だけ、宜しければお持ち帰りくださいませ。



インスパイア→少女病【告解エピグラム セカイの調律した祈り】
前世捏造絡みのお話になります。























★★★★★★★★★★★





「悪魔の翼は、皆お前みたいに黒いのか?」


柔らかな日光が窓から射し込む執務室。
ソファで仰向けになっていたシエルは、
頭上に見える顔に問う。
視界に入る陽にも負けぬ穏やかな微笑みは、
とても闇に生きるモノとは思えない。


「翼、ですか?」


膝枕として使われている執事は、些か首を傾げた。


「ああ、翼だ」

「何故突然そのようなことを?」


前触れもない問いに、
執事は不思議そうな顔をしている。
子供の思いつきによる発言や問いは日常的だが、
悪魔について訊ねることは今までになかった。
知ったところで、
自分とは全くの無関係だと思っているのだろう。
契約に関すること以外は、だが。


「……別に」

「別に、じゃないでしょう?」


顔を背けるシエルの頬を引っ張り、
執事は無理矢理自分の方に向かせる。
主人に対して使用人が取る行為としては、
随分礼儀知らずだ。
けれど、シエルはそれについて咎めたりしなかった。


「……放せ、痛い」


不快な眼差しを向けるも、主人の色はない。
……対等、と表現するには過ぎるだろうか。
しかしそれに近い雰囲気ではあった。
シエルはいつまでも続く行為に、
瞳の濃紺を強めて軽く睨む。
鬱陶しいとでも言いたげに。


「貴方が仰れば済む話でしょう?」


コツン、と
執事は手の甲で主人の頭を優しく小突いた。
その笑みはどこまでも柔らかい。


「……ムカつく」


シエルが舌打ちをすれば、執事は即座に咎めた。


「英国紳士がそのようなことをなさってはいけませんよ。無論言葉遣いもですが」

「今は“ただの”シエルだから別にいい」


ぞんざいに切り捨て、
未だに頬を引っ張る手を払い除ける。
ひりひりとした感触に、子供は顔をしかめた。


「痕が残ってくれたらどうしてくれるんだ」

「それは失礼致しました。“シエル・ファントムハイヴ卿”はお顔が命ですからね」

明らかな厭味だったが、シエルは余裕綽々と返す。


「はっ、ソレ以外は能なしとでも言いたいのか? お前という駒を動かしているのは、紛れもなく“奴”だというのに」



――シエル・ファントムハイヴ卿と、ただのシエル・ファントムハイヴは、違う。
復讐のためだけに生きる存在にならぬよう、
取り留めた命の価値を見出だせるよう、
……が与えた、論理(logic)
故に今、この現状が存在し。


「そうでしたね。頭脳と顔を取ったら彼には何も残らない、と言うべきでした」

「それでも厭味には変わりないがな」

子供は徐に手を宙に伸ばし、
執事の耳にかかっていた黒く艶やかな髪を引っ張る。
ぷつっと切れる音がすれば、
指先には一本の毛が残った。
シエルは思わず小さな笑みを洩らす。


「子供ですか貴方は」

「煩い。それよりさっきの「大抵の悪魔は黒い翼ですよ」


まだ続いていたのかと半ば呆れながら、
彼は答えを口にした。
そもそも翼についてなど、悪魔が考える意味もない。
あらゆる負の情から産まれた、この身。
形成している主たる色が黒であるのは、
言うまでもないこと。


「まさか白い翼の悪魔を見た、とでも?」


揶揄めいた疑問が、自然と飛び出す。
――そんなわけあるか。
返ってくる答えは、目に見えている。
執事はそう疑わなかったが、
シエルの表情は険しくなった。


「……シエル?」

「何で……“白”だと?」


子供の濃紺が戸惑いに揺らめく。
彼としてはあまり深く考えたわけではなく、
ただふと浮かんだからなのだが。



……何故かは、わからない。



何が重要かといえば、ソレこそが重要だというのに。
他のどの色でもなく、
“白”を言葉にしたことこそが。
けれど執事には全くわからない。
シエルも、ソレが真実として何を意味するかまではわからない。



「……見たのは、夢の中だ」

「夢? それなら様々な記憶が絡まって「違う!」


否定の声は、強く。
滅多に些末なことに拘らない子供が、
今は断固として言い張っている。
騙しも流しも許さない、毅然とした態度。


「ですがシエル、可能性としては天使の「……紅い、瞳だった」


声色は僅かに震えている。
一瞬閉じた濃紺は、弱々しく姿を見せ。



「白い翼に、紅い瞳だった。アレは、忘れない」



それを最後に、シエルは黙り込んでしまう。
普段からは想像もつかない脆弱さに、
執事は違和感ばかりを抱いた。
それでも落ち着かせるために頭を撫で、諭そうとする。


「……仮に悪魔だとして、貴方に何の「睨んだんだ、僕を見て。まるでこの世の全てを呪い憎悪するような、燃え盛る瞳で。それに――」





『――さあ、貴方を殺して終わりましょう。』





人には到底出せぬ音で、
あらゆる負の情を染み込ませた凄絶な音で、
その悪魔は囁き笑った。
今でも思い出せる。
真っ赤に染まった手が延ばされ、
喉元に触れる刹那――シエルは勢い良く叫んで。



「来るなッ!!」

「坊ちゃん!?」


気圧され、呼び名が変わる。
幼い主人がここまで取り乱すことは滅多にない。
忌まわしき過去に触れられた場合ならば、
過剰な反応を見せるのも仕方ないのだが。
今のシエルは夢“如き”に脅えているのだ。
夢で見た、白い翼に紅い瞳を持つ悪魔に。


「坊ちゃん、シエル、しっかりなさい。そんな悪魔は此処にはいないでしょう?」





――瞬間、自分の中の“何か”が嘲笑(わら)った気がした。





「っ……」


執事の優しさを帯びた叱咤を受け、
シエルは漸く我を取り戻す。
瞬きを繰り返す濃紺は、
先程よりも強さを取り戻していた。


「……悪かった」


主人が身体を起こせば、
執事は彼の腕を軽く引っ張って、
また同じ体勢に戻す。


「何してっ」


セカイの調律した祈り 2
________________________________________


「本日のスケジュールには余裕がございます。少し仮眠なさっては?」

「いらん、出過ぎた真似はするな」

「心外ですね。恋人として、貴方のお身体を労るのは当然では? それともこういう時、“人間”は放っておいて無理をさせるのですか?」


種族が違う故の皮肉げな質問に、
シエルは唇を噛み締める。
こういうところが厭らしい、と思う。
どう言えば自分を上手く誘導できるか、
それを知っているから憎らしい。
だがそんな愚痴を吐いたところで意味もなく……
シエルは無言で瞼を閉じた。
一時間後に起こせ、と呟けば、
執事は肯定を告げる。


「ええ、おやすみなさいませ」


優しい声が、空間を揺らした。
それを最後に音は全て断たれ、
室内は静寂に包み込まれる。
執事の膝を枕に、幼い主人はもう夢の中だった。
ひどく疲れが溜まっていたのだろう。
弱味を見せず、決して弱音を吐かない、
強がり意地っ張りな面。
普段はそれでいいとしても、
こうして二人でいる時ぐらいは……。


「貴方の本音を聞きたいものですね」


彼はいとおしげに瞳を細めて呟く。
直後――視界から一切の光が消えた。











「……此処、は」


執事は立ち尽くしたまま、困惑げな顔で小さく洩らす。
目の前は真っ暗な闇。
先程まで彼がいた暖かな空間は、
今は完全に身を潜めている。


「夢の中、でしょうか」


シエルが瞼を閉じて暫くしてから、
執事自身急激な睡魔に襲われた。
まるで強制的に此処へ連れ込まれたかのように。
本来、悪魔である彼に睡眠は必要ない。
余程体力が低下しているなら話は別だが、
高位の彼がそこまで衰弱することも滅多になく。
付け足すなら、
その彼を夢に引き摺り込めるモノなど、そう多くはないのだ。


「……アレ、は」


不意に闇の中で、何か白いモノが浮かび上がった。
血の如く紅い、光も。
白い翼が、バサリと羽撃く。


「……紅い瞳に、白い翼。坊ちゃんが見た悪魔……いや、でもアレは」


執事は戸惑う。
顔全体は見えないのに、
どこか懐かしい感じがした。



(私は……“彼”を知っている?)



見えるのは、純白と純紅だけ。
それでも、執事は“彼”と呼ぶのに何の躊躇いも感じなかった。


「……貴方は、誰ですか?」


問い掛けながらも、彼は愚問だと思わずにはいられない。
自分は知っている。
故に、信じられない。



……やみが、ふるえる。



『――思い出しなさい』



残酷を纏う、凍てついた声。



『――その場所まで堕ちた、修復できぬ傷を』



世界の全てを厭い呪う、穢れの声。



「……っ」


頭に精神体に直接響く魔の声に、
彼は両手で耳を抑える。
絶対的な支配力が働き、
気を抜けば今にも意識を奪われてしまいそうだった。



『――貴方はすぐに騙される』



憎悪の裏に憐憫を含んだ、痛みの声。
顔をしかめる執事を無視して、ソレは続く。



『――殺しなさい、悲劇を断つために』



――殺しなさい。
その声だけが、
塞いだ耳にまでやけに鮮明に響いた。
誰を……なんて決まっている。
この悪魔が、
あの子供の元にも姿を見せたのであれば。


「……貴方も悪魔ならわかるでしょう。契約違反になることぐらい」『――思い出しなさい』


高らかな声が、催促するように響く。
白い翼が、羽撃く。
その純白に、舞い落ちる羽根に、
彼はひどく苛立った。
いっそのこと全部黒く染めてしまいたい、
そんな嫌悪感さえ抱き。
そもそも悪魔に純白など最も縁遠い。


「貴方は夢魔の類ですか?」

『……』

「答えないならば肯定と『……まだ、まだ思い出さないのですか? セバスチャン・ミカエリス』


静かな絶望を孕んだ声が、
闇に響き、溶け込んでいく。
けれど、思い出せと言われても、
執事……セバスチャンには何のことだかわからない。
記憶を辿ろうとしても、
靄がかかったように見えてこない。



『私の正体など些末なこと。ですが、私はそう……今ここで貴方にこそ告げるために。この場所で――』



……ふっと、黒以外全ての色が消える。
セバスチャンは咄嗟に警戒したが、
軽い眩暈に襲われた。


「っ……」


状態は悪化を辿り、精神体の身が揺らぐ。
膝をつきそうになりながらも保った視界には、
一瞬だけ……異質な悪魔の表情を捉え。



「……わた、し?」



呟きに、悪魔は初めて哀しげに微笑んだ。
それはとても寂しげで、
刹那見えた純白さえ霞んでしまいそうな……。



「貴方はっ『私にできることは導くことだけ。――さあ、終わりましょう』





――純黒を、純白へと。
どちらにせよ救いにならず、
“悲劇を重ねる”行為。
だけど、もう止められない。
歯車は既に――時を巻き込んで回り出す。





真実の欠片を掴み取ることさえ叶わぬまま、彼は瞼を閉ざした。











「……はっ」


急いで目を開けば、
膝枕を利用しているシエルはまだ心地好く眠っている。
壁時計を見遣れば、まだ五分も経過していなかった。
ひどく長く思えた時間に、
セバスチャンは息を吐く。
とりあえず体勢が崩れなかったことは幸いだろう。
安眠妨害だと、
主人に機嫌を損ねられても困るから。


「何故私が貴方を殺さなくてはならないのでしょうね」


こんなにもお慕いしているのに……。
続けた言葉は、妙に冷め切っていた。
自分が発したとは思えない様に、
彼は違和感を覚える。
慕う? 誰を?
この子供を? 



――どうせ、裏切られるのに?



「……っ」


浮かんだ想いに、頭を振った。
有り得ない、有り得ない。
そう何度も、彼は自分に言い聞かせた。
それなのに浮かんでくるのは、
あまりにも醜悪で残酷で……救われない、感情。


「……貴方を、殺したくはっ」


言葉が途切れ、黒い爪が、白い指が、
シエルの首を緩く掴む。
自然と、力が込められた。



『さあ、終わりましょう』


「――ッ!!」


脳に直接響く声に誘われ、シエルの喉を圧迫していく。
指先が皮膚に食い込むのを見て高揚する自分に、
セバスチャンは愕然とした。
しかしそれを拭い去るかの如く、
様々な映像の断片が脳裏を過る。
黒く染まり続ける翼の記憶に、
たった一度だけ。





『……どうせ貴方も裏切るのでしょう?』





「……セ、バ「嗚呼……そういうこと、ですか」



呼吸ができず、苦しさから目を開いたシエル。
彼はそれを見下ろし、
何かを納得したのか冷ややかに口元を撓めた。
首を絞める力は、
先程よりも確固たる意思を持って、強く。


「不思議なものですね。さっきまでは、欠片すら忘れていたのに」



記憶の忘却、ソレは自らが選んだこと。
だが一度でも蓋を開けてしまえば……封は綻んでいく。


「セバ、スチ……ぅっ!」「申し訳ありません、シエル。私は私のために、貴方を殺さなくてはならないようです」


突然の告白と暴力的な絞殺行為に、
シエルは驚いた顔でセバスチャンを見つめた。
何故? 何故?



セカイの調律した祈り 3
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言わずとも聞こえてくる言葉に、
セバスチャンはせせら笑う。


「白い翼に紅い瞳……ええ、確かにいますよ。その悪魔は、確かに存在しています」


声色は可笑しくてたまらない様子で。
けれど、ひどく寂しげで。
シエルが手を延ばせば、
彼は空いている手で掴んだ。
そして……。



――バキッ!



「っぅっ!?」


鈍い音が響いた後、
セバスチャンは掴んだ手を解放する。
折られた腕は力なくだらりと下がり、
僅かな動きさえ儘ならない。
何が起きたのかと呆けていたシエルだが、
状況を理解すると一変した。


「……何のつもりだ?」


地を揺るがす勢いの、低音域。
首の痛みは、怒りで麻痺している。


「さすがは坊ちゃん、ご理解が早い」


絞める力を緩め、
悪魔はくつくつと喉を鳴らして笑う。
執事から悪魔に変わった顔を、
子供は睨みつけた。


「上辺の世辞はいい。貴様……どういうつもりだ」

「申し上げたでしょう? 私は私のために、貴方を殺すと」


不遜な態度に、謝罪は見られない。
シエルは内心では動揺を捨て切れなかったが、
取り乱さないよう繕った。
隙を見せれば即絡め取られてしまうと、
経験上嫌というほど知り尽くしているからだ。


「お前が契約違反か。美学とやらは棄てたか?」

「口が減らないものですね。命乞いなさる気もないのですか?」

「する理由も気もないな」


言い分は尤もだ。
シエル自身に非は全くない。
それで殺されるというのであれば、
理不尽だと非難したくもなるだろう。
けれど幼い主人は絶対にソレさえ口にはしない。
死はいつだって、
理不尽に、不平等に、襲い掛かるものだから。
何よりも誰よりも彼は、
その残酷を知っているから。



……けれど。



――死を恐れないことと、命を投げ出すことは、違う。



「お前と契約した時から、僕はいつ殺されてもおかしくないと思っている。お前が契約を絶対に守るなんて、そんな幻想(ゆめ)は見ていない。だが理由なく差し出せるほど、この命は安くないぞ」


歴代のどんな王よりも気高い王が、
其処にはいた。
子供は知らないのだろうか。
否、知っているはずだ。
魂が気高ければ気高いほど、
悪魔は穢してやりたくなるということを。
どんなに強固な魂だとして、
一切の穢れに染まらぬ魂は……“普通は”ない。


「美しいですね、貴方は。例え四肢を全て折られ、眼球を抉られても、態度は変わらないのでしょう」


愉しげな色を含んだ声にも、
シエルは動じる様子を見せない。
一分の隙も与えてはならない。
この悪魔には、
どれだけ用心してもしすぎることはないのだから。
まだ無事な腕を延ばし、
子供はセバスチャンの胸ぐらを掴む。


「無駄が過ぎる。何故僕を殺すか言ってみろ。ソレ次第ではこんな命ぐらいくれてやる」



潔さはされど――逆鱗に触れるには、充分だった。


「がっ!!」


首を掴まれていた手に力を込められ、
シエルは苦痛に顔を歪める。
ギリギリと食い込む黒爪は、生命の色を滲ませた。
セバスチャンは手を高く上げ、
小さな胴体を楽々と浮かせる。


「私がお護りしてきたモノを、“こんな”と仰いますか?」


紅い瞳が、昏く光る。
指先は冷たく、一切の体温が失われていた。
首を絞める力だけで身体を支えられているため、
子供は下手に身動きが取れない。
……握り締めていた拳から、何かが落ちた。
先程までセバスチャンの胸ぐらを掴んでいた手。


「……嗚呼、まだこんな」


絨毯を一瞥し、悪魔は火を起こす。
空いている掌の上で、小さな炎が燃え盛る。
全てを呑み込んでしまいそうなソレに、
シエルはひどく嫌な予感がした。



――燃やさせてはいけない。



理由なく、けれど強く強くそう思って。


「……やめ、ろ」


擦れた小さな声で制すれば、
セバスチャンは首を傾げる。


「何故です? 貴方は知らないでしょう?」


事実を突きつけられ、子供は黙り込む。
無関係でない気がしただけだと言えば、
嘲笑って切り捨てられるのは目に見えているからだ。
しかし強気も威勢も気力があればこそ。
体力の限界がきたのか、
幼い顔は青白く染まり始めている。
同時に――セバスチャンの背から現れたのは、
黒い翼……では、なく。


「……な、んで」


シエルは目を見開き、視界に収まる翼を凝視する。
悪魔を示す翼の色は、黒。
数多の書物にも描かれ、
セバスチャンもまたそうであるはず、だった。
ところが彼の翼は完全な漆黒ではなく、
薄く白が混ざっている。
聖なるモノに対して描かれる、白が。


「貴方を殺すと決めたからですよ」


意味がわからない。
子供は考える間もなくそう思った。
純白は穢れから最も遠い天使の色故、
穢れに満ちた悪魔とは縁がないはずだ。


「まさ、かお前は……悪魔じゃっ「いいえ、悪魔ですよ。純白に一切の穢れがないなんて、人間が決めたこと。まあ穢れに染まっても、表面上はわからないでしょうね」


皮肉に、聞こえた。
夢の中の声にも似ていると、
この世の全てを憎み呪うような声に、似ていると。
……子供の感覚は、的外れではない。


「わから、ない?」

「過去に“虐殺の”天使と呼ばれた天使がいましてね。彼は天使でありながら、純白の翼を持ちながら、数多の人間を殺したのです。この世界は不浄に満ちていると。本当は彼こそが穢れた存在であったのに」


思わせ振りに、セバスチャンは笑みを深める。
これは挑発だと、シエルは気づいた。
鋭く睨みつければ、首から手が離される。
支えを失った小柄な身体は、
絨毯に尻餅をついた。
周辺にテーブルがなかったことが幸いだろう。
頭にでもぶつけたら、
大怪我をしていたかもしれない。



(今だけはフィニに感謝だな……)



テーブルを誤って破壊した駄目庭師を思い、
シエルは心中で洩らす。
魔力で修復するような物ではないため、
わざわざセバスチャンに直させはしなかった。
賢明な判断だったと、今なら言える。


「げほっげほっ!」


急に解放された喉から空気が入り込み、
子供は大きめの咳を繰り返す。
涙目になってぼやけた視界には、
ソファから立ち上がり見下ろす悪魔の姿。



そして――



「っぁぁぁっ!!」


掌で踊る炎が肩に押しつけられ、
シエルは悲鳴をあげた。



――思い出してしまう、背中の印、その熱さを。



――消えない、烙印。



「っ……」


どんなに時が経とうとも、身体は忘れない。
心を麻痺させることはできても、
身体だけは永遠に覚えている。
鎖に繋がれ、檻に囲われ、
気持ち悪い視線が突き刺さった。
檻の外では、数多の汚れた手が身体に触れてきた。


「……っ」


子供は咄嗟に、口元を手で覆う。
抑え切れない嘔吐感が迫り上がってくる。
折れている腕も激痛を訴え始め、
頭がイカレそうになる。
けれど――シエルが苦しめば苦しむほど、
セバスチャンの翼には白が滲んでいった。
歪な、異質な、翼。
……その裏に隠された、痛み。


「脆弱ですね。この程度の火傷、痛みの内にも入らないでしょうに」


セカイの調律した祈り 4
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肩口から、炎が消える。
限界を訴えたシエルの身体は、
絨毯に俯せの状態で倒れ込んだ。
濃紺の瞳に映ったのは、淡い銀に輝く、落下物。
――何故、これを消そうとするのか。
ネックレスにしてまで身につけていたくせに。
“指輪”を見つめながら、子供は考える。
ソレが辿ってきた道筋、即ち“過去”を。
そもそも指輪自体が、
世間一般では特別な意味合いを持つモノなのだ。
しかもそれにチェーンをつけて、
首から掛けていたのなら尚更のこと。
悪魔がただの装飾品に興味を持つとも思えない。
とすれば……


「これは、お前の恋「私が“裏切った”人間から貰った物ですよ」


嘲りを含んだ返答が投げられた。


「……裏切った? まさか契約者の「いいえ」


はっきりと、凛とした声色で、
セバスチャンは否定する。
一度だけ、翼が羽撃いた。
紅い瞳は、その深さを昏く強める。


「詮索好きな貴方に教えて差し上げましょう。私達悪魔は人間を誘惑する存在ですが、同時に私達は人間に焦がれる運命なのですよ」

「嘘だ!」


セバスチャンの説明に、
シエルは顔を上げ、声を荒げて叫ぶ。
急に負担をかけられた喉は、
小さな咳を何度か引き起こした。
そうするぐらい、信じられなかったのだ。
悪魔が人間に焦がれるなんて、
餌に糧に焦がれるなんて……あるわけがない。
その否定は即ち、
甘やかな時間すら虚偽に変える。
……溺れることは、ない。


「っげほっ、そんな、わけっ「悪魔自身も最初は気づいていないんですよ。愛した人間に“裏切られ”、以前よりも翼が一層黒く染まった時……思い出すのですから」


狂気や哀しみ、行き場のない痛みを抱いた瞳は、
遥か遠くを見つめているようで。


「悪魔が人間を愛しても報われることはありません。そうでしょう? 悪魔なんですから。数多の絶望から産まれた故に“絶望を義務づけられた存在”なんですから」


悪魔は笑う。
乾いたまま、虚ろなまま。
……子供は、言葉を失った。
目の前にいる悪魔が、
いつも人を見下し虫けらのようにしか扱わない彼が、
今はただの人間ではないかと思えてしまう。
瞬間脳裏に浮かび上がったのは、純白の翼。
黒が裏切られた証というなら、
白は、まさか……。


「ご名答ですよ、坊ちゃん。“裏切った”側の証です」

「がっ!?」


突然の衝撃に、シエルはまた顔を伏せる形となる。
いくら絨毯が敷かれているとはいえ、
勢い良く顔面から突っ込むのでは痛みも倍増だ。
――顔を、殴られたのではなく、蹴られた。
頭が理解するまで、
数十秒はかかっただろう。
あまりにも、非現実的すぎたから。


「愚かで無様ですね、人間は」


淡々とした、
否、軽蔑を含んだ眼差し。
その奥に潜むのは、紛れもなく哀しみ。


「糧でしか餌でしかない貴方達に、私達悪魔は愛し焦がれる運命。ですが大抵は裏切られて終わるんです。それに気づけた悪魔は裏切る側に回る。その繰り返しなんですよ」



どちらに転んでも、安寧の成就は許されぬ運命。
白い翼も、黒い翼も、
成就を許されなかった愛の残骸。
だから彼等は無意識に、
“何も愛していない瞳”を装い続ける。
皮肉な運命に、逆らえずとも……。


「僕はちが「貴方は裏切らないと? 悪い冗談でしょう。貴方が不確かなことを約束なさるわけがない」


屈んで目線を合わせ、シエルの顎を掴む。
そのまま無理矢理上げれば、
眼帯がするりと落ちていく。
晒されたのは、
死の、紫の、契約印。
二人を繋ぐ、絶対的な絆。
否――鎖、呪縛。
もう片方の手で、セバスチャンはソレに触れる。
――抉り取りたい。
浮かんだ衝動は、
悪魔が持つ本来の残虐性を駆り立てた。
そう、これこそが、悪魔の在り方だ。





――決して空を見るな貴方こそが、幻想(ゆめ)を選び底を這う姿だ。





頭に響く声は、重く低く……どこか物悲しい。
芯から揺さ振られて、
胸を締めつける痛みを倍増させる。
彼は機能していない右目に、契約印に、指を挿し込む。
“解く”のではなく、“壊す”ことを選んだのか。
二度と戻れずとも。



「……まるで人間だな」


痛みなど感じないフリを装い、
シエルは気の抜けた笑みを零す。
ソレは安堵にも似た、
この状況には不思議すぎるモノで。


「さすがの貴方も頭がイカレましたか?」

「イカレたのはお前だろう? 理由は聞けた。後は好きにしろ」


思わぬ許可に、彼は印から指を退いた。
冷静な表情に、動揺が広がる。
この子供は、
こんなにも簡単に命を差し出せただろうか。
逆恨みとも取れる愚かな行為に、文句一つ発さず……
ただ、ただ、聖母のように受容して。


「ふっ、間抜けた顔だな。さっさと殺せばいい。お前にはその資格がある」


圧倒的劣勢に置かれながら、その矜恃は永久不滅。
だから、己は魅かれたのだろうか。
あの日、喚び出しに応じたのは、
この魂だからこそ……馬鹿な。


「潔さは美しいですが後悔なさいませんように。私はマダムと違い、貴方を殺すことに迷いはありませんので」


宣言通り、
セバスチャンは顎から首へと手を移動させる。
それを見て、シエルは嘲った。
途端、悪魔の顔つきが険しくなる。
不快の色を滲ませ、眉間には皺を寄せて。


「何が可笑しいのですか?」「ふん、自分で考え……っ!」


急激に力を込められ、子供は言葉を失う。
今までの非ではない。
確実に殺すための、暴力。
このままいけば、
細い首は容易く折られてしまうだろう。



(ああ、それでも――)



遠ざかっていく意識の中、シエルは想いを馳せる。
セバスチャンは気づいていないモノ、
紅い瞳から零れ続けるモノに。
最期まで復讐を選ぶならば、
死に物狂いで抵抗するべきだ。
頭では理解している。
こんな形で生を終えるなんて、
馬鹿げていると。
それなのに指先一つ動かせない。
まるで、“ずっと昔から”、こうなることを望んでいたような、
奇妙な錯覚。
何かに浮かされるように、
子供は、ぽつりと呟いた。声など出せないはずの、その唇で。



「……“今度”は、連れてってくれるのか」


満ち足りたかのような声が、彼の鼓膜を揺らす。
――直後、首から手は放された。
ドサッ、と顔が床に伏せられる。
額への衝撃に、
朦朧としていたシエルの意識は、一気に引き戻された。


「ぃっ――「何故、貴方が……いいえ、そんな、でも確かに……」


立ち上がったセバスチャンは何歩か退がり、
化け物を見るような目を向けてくる。
刹那煌めいたのは、
遠き日の記憶を宿す、銀色の光。

セカイの調律した祈り 5
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『はい、これ』


華奢な体躯を持つ青年が差し出したのは、
特に装飾の施されていない銀色の指輪。
彼は薄い蒼の瞳を輝かせて、
漆黒の悪魔に微笑んだ。


『私に、ですか?』

『そう、僕も同じのを買ってさ。ペアリングってやつ?』


茶目っ気たっぷりに笑って薬指をちらつかせる彼は、
けれど芯の強い持ち主で。





『――どうせ貴方も裏切るのでしょう?』



幸せだった日々の中、
突然思い出してしまった記憶。
愛に裏切り裏切られる、悪魔の宿命。


『僕はお前を裏切ったりしない!』


差し延べられた手を、
いとも簡単に悪魔は振り払った。


『生憎裏切られることには飽きたんです』



背を向けて飛び立ち、純黒は純白へと。











(そう、この指輪は……)



光る指輪を拾い上げ、セバスチャンは瞼を閉じる。
……彼が叫んだ最後の言葉を、思い出した。





『お前と出会うためなら何度だって生まれ変わってやる! 何百年何千年経とうと、絶対に見つけだしてやるからなっ!!』





捨て台詞の常套句は、されど。
まさか……呪いだった、のか。



「――っ!? そんなっ、馬鹿な……ッ!!」


珍しく血相を変えて取り乱したセバスチャンは、
指輪を絨毯に叩きつける。
しかしソレは壊れることなく、
コロコロと転がって……シエルの薬指に収まった。
光は一層強くなり、
本来の場所に還れたような安堵感を放っている。
途端に――回復していく、傷。
一連の出来事を目の前にして、
セバスチャンはその場に膝をついて崩れ落ちた。
シエルは完治していく身体に戸惑うも、
とりあえず起き上がる。
淡く光を放つソレは、もう何も語りはしない。
もう充分に、語り終えたのだから。


「……ふふ、ははっ、あーっははははっ!」


狂い笑いが、歪に響く。
それはまさに“狂った”と呼ぶに相応しい、
戦慄を伴う脅威だった。
子供でさえ怯み、逃げ出したくなるぐらいの、異常。
故に、今踏み留まっていられるのは奇跡だろう。


「セバス、チャン……」


かける言葉も動作も、何一つ見つけられない。
全てが、彼の中で自己完結している。



(一体何が……)



「“貴方”は今も此処にいたんですね。まさか、嗚呼そんな……無力な人間にできる芸当ではないのに」


セバスチャンはゆらりと立ち上がり、
一歩ずつ距離を縮めていく。
反射的にシエルは、
一歩ずつ後退して距離を作った。
しかしすぐに壁際まで追い詰められ、
虚しくも逃げ場を失ってしまう。


「……っ」


セバスチャンの手が延びて、
シエルの両頬を挟むように掴む。
記憶の中の彼は、
薄い蒼の瞳に、淡い青の髪をしていて。
正に“空”を体現したような存在だった。
面影などは全くないのに、
収まった指輪だけは真実を告げている。


「己の魂の一部を指輪に託す、私が持っていなければ、何の意味もないのに」


そう、無意味なのだ。
二つ揃わなければ、共鳴は起こり得ない。
引力は成り立たない。
遺した一部の魂の痕跡を辿るなんて、
夢物語のような話で。


「……貴方なら、“貴方”が何故こんなことをしたのか、わかるでしょう?」

「何言って「冗談ですよ」


軽口を叩いた悪魔の顔は、ひどく儚げに寂しげに。
子供は息が詰まりそうだった。
痛い。
身体ではなく、心が。
代わりにさえなれないことに、
心が悲鳴をあげている。
代替品で満足できるわけもないけれど、
それにさえなれないというのは……


「……っ」


だから、考える。
積み重なった忘却の中から、
記憶の欠片を引き出すように。
自分ではない“自分”は、何を考えて――。
けれど、どれだけ考えても、頭を悩ませても、
シエルはシエル。
同じであっても、違うのだ。
それが、歯痒い。


「僕は「もういいんです。貴方が“貴方”ならば、私は貴方を殺せない……」


頬からゆっくりと、手が離れていく。
永遠に失う気がして、思わず腕を掴んだ。
――行くな、とは言えずとも。
セバスチャンは、
困った表情で見つめていた。
無理に無下に振り払うことはしない。
哀しげな視線に堪えられず、子供は俯いた。
どうすれば、どうすればいいのだろう。
どんな言葉をかけたら、
引き止めることができるのだろう。
気持ち悪い何かが、
思考に絡みついて邪魔をする。
記憶が引き出せない。


けれど思い出したい。
“代わり”になることが叶わないのなら、せめて。
セバスチャンを追い掛けた“自分”が、
指輪の送り主が、何を思っていたのかを。
ソレをシエルが知る術は、
もしかしたらないのかもしれない。
でも、きっと――何か、何かあるはずだ。互いに大切な存在は、ただ一人だけだから。
深く、深く、
本来ならば触れる必要のない記憶の水底まで、
沈んでいく。
あるかどうかもわからない答えを求めて。
いつこの手が振り払われてしまうか、
怖れながらもひたすら。


「……貴方には何も求めていませんよ」


諭すような声が突き刺さるのを無視して、
シエルはただ捜し求める。
繋ぎ止める、答えを。











――護りたい。












「――ッ!?」


突如脳内に直接飛び込んできた、声。
誰かいるのかと子供が辺りを見回しても、
気配は自分達のものだけで。
挙動不審にも似た様の主人に、
セバスチャンは何が起きたのかと小首を傾げる。


「坊ちゃん?」

「……」


反応は、ない。
今のシエルは姿なき声を追っているのだ。
――護りたい。
これは、誰の言葉?
子供は片鱗に触れた気がして、
集中力を最大限まで上げる。
この先に何かがある。
妙な確信が、胸の中にあった。
掴み取りたい。
子供は強く強く願う。
その願いは、呪われし契約をしたあの日より、
ずっと、ずっと、強固なもの。











『僕はあいつの心を護りたいんだ』



……ほら、また聞こえた。



『独りきりで彷徨っている哀れな悪魔……今はまだ、僕の力は足りないけれど』



聞こえるのは、無力を噛み締める痛切な声。
当然だ、置いて行かれてしまったのだから。
しかし、悲壮感はない。
全神経を傾けたシエルは、
声の姿をやっと捉えた。
……薄い蒼の瞳、淡い青の髪。





……そらが、そらを、みあげている。





『――必ず、見つけだす。例えどれだけの時を経ても、必ず。もう独りになんてさせない。――愛してる、から』



薬指に収まっている指輪を掲げ、誓う。
ソレを受けて、証は目映い光を放つ。
魂の一部が、その煌めきが、
銀色の中に収まっていく。


(ああ、これが……)

セカイの調律した祈り 完結
________________________________________



浮かび上がる、欠片。
それらが真に自分のモノではないと、
シエルは確信した。
己が作った幻想ではない。
ソレは確かに存在していたのだと。



だってほら、こんなにも懐かしい……。



そして気づかされる。
やはり違うと。
同じではないのだと。
護りたいも、愛しているも、
子供自身では口にできないから。
……だから、ほっとしたのかもしれない。
違うのならば、それだけは、確かに、
“自分だけの”言葉だ。


「――」

「……は、い?」


俯いて呟かれた言葉は、
セバスチャンには届かなかった。
小さな声が、再度唇から零される。


「――た、い」

「坊ちゃん?」

「――せ、ない」


肝心の言葉は、聞き取れず。
けれど、それほど大切だから。
嘲笑って、切り捨てられたくないから。
必死に、必死に。
言葉などいくらでも嘘を吐けるという人もいる。
だけど本当に大切な言葉だけを選ぶなら、
そこに嘘などあるはずもなく。
例え優しい嘘だとしても、想いは滲む。
心の問題なのだ。
どんな言葉を使うかではなく。


「坊ちゃ……シエ、ル」


俯いたままの頭を、
セバスチャンは躊躇いながらも優しく撫でる。
名を呼ぶ声は、常よりも柔らかい。
シエル――Ciel。
フランス語では『空』を意味する言葉だという。
もしソレが、
空を体現した“自分”と重ねたものならば……。
遣る瀬なさに、
子供は腕を掴む手に力を込めた。
皮肉めいて、それでいて哀しい。
けれど、その痛みを引き受けてでも、
伝えたい想いが……ある。
――たい、から。
――せ、ない、と決めたから。
例え“自分”の影響を受けていたとしても、
確かめる術などない。
だから、信じて告げるしかない。
永遠の愛など誓えなくても、
確固としたソレは譲れない。



「――僕は、お前を“救いたい”。もう独りになんてさせないッ!!」



顔を上げて、
シエルは精一杯の気持ちをぶつける。
望まれたのは“自分”の言葉だけれど、
それをそのまま伝えたのでは何一つ変わらない。
そう、思えた。


「シエ、ル……?」


突然の告白に、
彼は些か戸惑っている。
主人が感情を剥き出しにしていること自体、
己の目で見ても信じられないのだ。
いつだって状況から一線置いて、
甘い時間を過ごす時ですら、
自分の立場は頭から消えず。
フリばかりが、嘘ばかりが、
偽りばかりが上手くなっていった、はずなのに。
今のシエルは、悪魔も知らない一面なのだろう。



されど、受け入れるにはやはり容易くなく。



「……お気持ちはわかりました。ですが申し訳ありません。私が知りたいのは貴方ではなく「確かにっ! お前が求めていた言葉とは違うかもしれない。でも、でもっ、違っていても、変わらないものが、ある。もう、もう、お前を独りにしたくない……っ!」


シエルはセバスチャンの腕を引っ張り、
自分の方に寄せると抱き締める。
傍目からは抱きついているとしか見えない身長差。
生きた長さも悪魔の半分にも満たず、
何から何まで差は広がるばかりで。
それでも、不器用なりに、
本当に、本当に、想っていた……。



(嗚呼――)



触れたのは、優しさか温もりか。
否、呼ぶならば未知。
彷徨い続けた悪魔は知らない、この感覚を。
光など見るつもりはなかったのに。
裏切られる前に裏切り、
全てを終わらせるはずだったのに。
そうして生き続けるのだと、疑わなかったのに。


ふとセバスチャンが瞼を閉じれば、
白い翼の悪魔が哀しげに微笑んでいる姿が、
朧げに見えた。





『――宿命は変えられない。いつかはどちらかの色に染まる運命。それでも貴方は彼と在るのですね』



問いではなく、断定。
同じだからこそ、言葉を交わさずとも。
そして……導く側に、
今を生きる者を遮ることはできない。


忠告は意味を失い、残像は薄れゆく。
されど、無意味ではなかった、から。
セバスチャンは瞳で笑み、唇だけを動かした。
消え逝く白き翼に、
孤独に囚われ続けた悪魔に、最期に。


「――」



『……貴方は、言うと思いましたよ』



声にならないソレは、同じだからこそ届いた。
そして誰も知る必要はないから語る者もいない。
完全に消滅する刹那、
白い翼の悪魔は初めて微笑み返した。
儚さも、哀しさも、寂しさすら含まない、
安らかで満ち足りた笑みだった。
同じ道かもう一つの方を選んだならば、
きっと見られなかった。
純白も純黒も救済を与えはしない。
ただ繰り返すばかりに、
痛みを増やし続けるだけだったから。



「……シエル」


沈黙の後に発された名に、シエルは肩を震わせる。


「っ……」


――拒絶される。
即座に思って、子供は腕の力を強めた。
まるで幼い子供が親と離れるのを嫌がるように。
普段は全く垣間見ることさえない様に、
セバスチャンはクスリと笑みを洩らした。
全身全霊で求めてくるならば、
同じだけの誠意を以て。
主人と執事ではなく、互いの存在そのものに。



「……“最期の時”まで、共にいてくださいますか?」

「っ!?」


弾かれたように、子供は顔を上げる。
契約がある限り、
別離の運命には抗えない。
いつか必ず、終焉りが来る。
互いにソレを知っている。
故に永遠は誓えない。
魂を喰らわれ、
それでも共に在るだなんて、
逝く者の自己満足にすぎない。



――だから、最期まで。



「何を、今更っ……お前が離れたいと言ったって聞かない。僕が生きてる限り、この手は絶対に離さない!」



誓う、誓う。
唯一約束できる在り方。
……終焉りが来るから、信じられると。
セバスチャンはシエルを抱き締め、
頬に手を添える。
唇に口づけを、秘め事のように囁いて。



「イエス・マイロード。……どうか、放さないで」



肯定から、切願へ。
そう、願う、願う。
シエルが命令というカタチを取らなかった理由を知るからこそ、
どうか――と。
永い生の、刹那の瞬きでしかなくとも、
共に在れる瞬間(とき)は確かなモノ。
何にも覆せない真実。





だから――永遠など、いらない。

















黒き翼は裏切られた痛み。
白き翼は裏切った痛み。
――どちらも、孤独な色であり、痛みの証。
次に悪魔の翼を完全に染める色は、
どちらの色になるのか。いずれにせよ、
混色のままではいられない。



けれど、それはまだ先のこと。





今はただ、
二人で在れる確かな瞬間(とき)に、優しい祝福を。































fin

死渡幻夢様とても素敵な小説ありがとうございました♥
次回からは、相互リンク記念としまして、昨日サンプルを更新しました
「過去からの呼び声」書きますので、暫くお待ち下さい(^-^)
シエル女体、セバスチャン悪魔以外の人外、アニメⅡ期のメンバーも入り乱れての過去のセバシエですので、御注意を・・・
サンプルにあります様に、HバリバリR-18禁ですので、苦手なお嬢様は、お読みになりません様に・・・
原作のイメージが、果てしなく崩れる恐れがありますので、お読みになる方はご覚悟のホドを・・・
閲覧後の苦情は一切、受付ませんので、ご容赦のホドを・・・
それでは次回
「過去からの呼び声」第一章
「出会い」で再びお会いしましょう・・・
更新はツイッタ‐で致しますので、チェック下さいね(*^_^*)

________________________________________


素敵な頂き物♥
 Silent Secret:月猫様 セバシエ小説サイト様より
 相互リンクお礼小説頂きましたので、さっそく飾らせて頂きました。
 甘い二人で「時間も忘れてイチャイチャする二人」のリクエストに応えて下さり、とても素敵な小説ありがとうございました(*^_^*)
 
  
   「What time is it now?」


目が覚めたのは小鳥の囀りででもなく、太陽の光ででもなく、ただ自然と瞳が開いたからという理由。
白いシーツに埋もれた身体は一糸纏わぬ姿で、普段は服に隠れて見えない白い素肌も惜しみなく曝されている状態だ。
まだ起きたばかりの寝ぼけた頭は今の時間も、今日の予定も考えることはせず、ただ素肌に触れるシーツの感触が気持ちよくて、お気に入りの枕に顔を埋めれば。

「起きましたか?」

隣から聞きなれた声が耳を擽る。
その声は優しく甘やかで、この柔らかい雰囲気につつまれた寝室の空気を壊そうとしないもの。
どこまでもこちらを気遣った声だ。
この声が好きかと聞かれたら首を横に振るが、嫌いかと聞かれてもきっと自分は首を横に振るだろう。
別にこの優しい声が好きでもないし、嫌いでもない。でも、きっと他の連中は彼がこんな優しい声も出せるだなんてことを知らないだろうから、少しだけ優越感はある。
そんなことをなぜか頭の片隅で考えながらシエルは彼、セバスチャンの声に首を振った。

「まだ・・・」
「まだ?」
「あぁ、まだ起きてない」

言いながら枕に顔を押し付ける。
その声はくぐもったものになったが彼は一文字も聞き逃すことはせずに聞き取ってくれる。
当たり前だ、彼も悪魔なのだから。
それでも、それがなんとなく嬉しいと思ってしまうのは末期だろう。しかしもうその気持ちを見てみぬフリ時期はとうに過ぎた。

「まだお休み中ですか」
「そう、まだ寝てる」
「そうですか」

まるで子供みたいだなと自分で思いながら言えば、彼もそう思ったのかクスクスと笑いながら頭を撫でてくる。
声と同じく優しい手。

「セバスチャンは起きたのか?」
「はい」
「・・・どうせまた寝てないんだろう」
「そうですね」

貴方の寝顔を眺めていたら、勝手に時間が過ぎておりました。
悪戯が成功したように楽しそうに、そう囁くセバスチャン。
その台詞を何度聞いただろうか。本来ならば自分ももう眠らなくても大丈夫な身体の筈だけれど、まだあの頃と同じように眠いと思う“感情”があるせいか眠ってしまう。
しかしそれが嫌だと思ったことはないし、それについてセバスチャンも何も言わない。

「・・・・」

埋めた顔を動かし、チラリと片目で声のする方を見上げれば、自分と同じように一糸纏わぬ姿で此方を見下ろしている彼の姿が瞳に映った。
黒い髪に白い肌。眉目秀麗とはまさに彼のことを言うのだろう。
流石は悪魔、と思う反面、別にあの蜘蛛執事が眉目秀麗かと聞かれたら自分はきっと首を捻ってしまうだろうから惚れた弱みなのかもしれないと苦笑してしまう。
だが自分の考えは抜きとして、世間一般的には彼のことを、そして蜘蛛執事のことも眉目秀麗だと言うのだろう。

「どうしました?」
「・・・んン、別に」

見つめられていることが気になったのか、それとも何か考えているような此方の様子が気になったのか。
セバスチャンは苦笑するように聞いてきたのに対し、シエルは視線を逸らしながら首を横に振った。
きっと頬も少し赤くなっているだろうから身体に掛けているシーツを目下まで引き上げるのも忘れない。
惚れた弱みだなんて、そんなことを考えていたことを彼に知られたくなどないのだ。
それでもセバスチャンは何もかも分かっているように微笑みながら、そうですか、と頷き、シエルの覗かせた瞳の方に掛かる髪の毛を優しくかき上げる。

「・・・聞かないのか?」

その髪をかき上げる優しい感触に誘われるように枕から全て顔を出しセバスチャンと向き合うように身体をも彼へ向ければ、今度は額に掛かる髪の毛を優しくかき上げられる。

「聞いていいのですか?」
「・・・・・・・」

聞かないのかと聞いておきながら、ダメだ、と即座に答えるのも変な気がして黙ってしまう。
それを見たセバスチャンはクスクス笑い、髪をかき上げ剥き出しになった額に、ちゅっと口付けた。

「顔に書かれているので言葉になさらなくても結構ですよ」
「・・・んなわけないだろう」
「いいえ。しっかり書かれています」
「なんて」
「言っていいのですか?」
「いいだろう、言ってみろ」

自信満々に言うセバスチャンがなんだか気に食わなくてシエルも口角を吊り上げながら挑戦的に言う。すると彼はシーツと身体が擦れる音を立たせながらおもむろに身体を動かし、手を伸ばす。そしてそのまま目の前にいるシエルを捕まえて、素足までも絡めあわせて。

「好きだって。そう書いてあります」

ゆっくりと口付けた。

「・・・・」

しかしその唇は触れ合っただけですぐに離れ、その感触はまるで淡雪のように消え去ってしまう。けれどすでにその感触は何度も何度も味わったことのあるもので、離れた今でも刻み付けられたソレを思い出すかのようにジワジワと身体の中から侵食していく。
それと共に頬もだんだん熱くなっていき―――

「ば、ば、バカかッ」
「仕方ないでしょう、そう書いてあるのですから」
「うる、うるさい!」

シエルは恥ずかしさで死にそうだと瞳を閉じてセバスチャンを両手で押すが、彼の腕、そして足は自分に絡みついたまま離れることはなく。
そのどこまでも優しい眼差しも瞳を閉じていたって感じるのだからもう堪らない。

「ぼーっちゃん」

無駄に愉しそうに呼ばれた名前にシエルは再び、うるさい!と叫び、顔だけでも隠せないかと丸々ように頭だけ下を向けた。
額を彼の胸板に押し付け、グリグリと頭をふってやる。髪がグシャグシャになってしまうかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

「お前のそういうところが嫌いだっ」
「そうですか?」
私は好きですよ。
「貴方のことが」

シエルを抱きしめている片手を、グリグリと押し付けていた頭・・・うなじに這わせ、ゆっくりと髪をかき上げていく。
先ほどは瞳に掛かる髪を、次は額に掛かる髪を。今もそれと変わらないものなのに、なぜか意を持った手でうなじからかき上げられれば背筋にゾクリとした何かが走ってしまい、シエルはヒュっと息を呑んで反射的にセバスチャンの身体に抱きついてしまった。
それを彼は待っていましたと言わんばかりに強く両腕で抱きしめ返し、耳元で「可愛いですね」と囁くものだから、逃げる力など根こそぎ奪われてしまう。

「好きです、坊ちゃん」
「うるさい」
「好きですよ」
「・・・しってる」

だからもう言うな。これ以上僕を溶かしてどうするつもりだ。
そうやって罵ってやりたいけれどそんなことを言ったら自分がどうなってしまうのか目に見えているのだから、随分と学んだものだろう。

「じゃぁ坊ちゃんは?」

しかし次は逆に問われてしまう。

「坊ちゃんは私のこと、好きですか?」
「・・・顔に書いてあるんだろう?」
「貴方の口から聞きたいんです」

ハッキリとそう言われれば上手く誤魔化そうと思う気持ちまでも奪われてしまい、うぅ・・・と呻く羽目になった。
こんなことになるならばさっき言ってみろだなんて言わなければ良かった、なんて嘆いても後の祭り。
じゃぁ、とセバスチャンの背中に回っている手の人差し指を伸ばし、彼の背中に文字を書こうとすれば再び、聞きたいのです、と追い討ちを掛けるかのように強い口調で言われてしまう。

「本当に貴方は慣れませんね」
「こんな恥ずかしいこと、慣れてたまるかっ」
「そうですね。身体を重ねる時もまだ初々しい反応をしますしね」
「だからっ!お前がそういうことを言うから恥ずかしく感じるんだろうが!」
「おや、それは申し訳ありません」

ではもう何も言いませんので。そう言葉を切り、黙ってしまう。
きっともう何も言わないから、いつでも安心して“好き”だと言えばいいという意味なのだろう。
これを優しさと取るか意地悪と取るかは人それぞれ、そして悪魔それぞれだと思うが自分は後者を取る。
だがこのまま文句を重ねても、きっと彼は自分が“好き”だと言うまで許さないに違いない。

「~~~~~~っ」

たったの二言がこんなにも恥ずかしいだなんて、不思議なものだと余裕ぶっても恥ずかしいものは恥ずかしい。
早まる鼓動はどうせバレてしまっているからもういい。
シエルは大きく深呼吸し、抱きつく腕をより強くする。

「・・・好き、かもしれない」
「かも?」
「~~~~~す、きっ」

ぎゅっと瞳を閉じてそう言えば、急に身体を引き剥がされ、しかしすぐに唇に柔らかい感触が襲い掛かった。

「ん、ふぅ・・・」

だが柔らかく優しい口付けは一瞬。
すぐに口腔に彼の舌が潜り込み、荒々しく内を犯していく。
それでもその荒々しさの中にも此方を気遣う心が見えて、心がギュッと苦しくなる。
自分の思うままに貪ってしまうことをしないセバスチャンが、少しだけ憎い。
だって、彼の欲望を満たしたいと願えば、自分から動かなければいけないのだから――――

「ふ、んぁ・・・うン」

熱に浮かされながらも、その熱にのみ込まれてしまわないように自らも舌を絡め合わせ相手を求める。
唾液を流し込まれ飲み込み、そしてやり返すように唾液を流し込む。
くちゅ、くちゅりと水音が耳を刺激し、大胆になってしまった自分を恥ずかしく思うのもいつのもことで。そしてそれを慰めるように“よくできました”とセバスチャンが頭を撫でてくれるのもいつものこと。

唇が離れたときにはもう息も絶え絶えで、それでも彼はもっと先を強請ってくる。
悪魔になったにも関わらずどうしてこんなにも翻弄されてしまうのだろうと思わなくも無いが、この息苦しさが心地いいのかもしれないなんて思ってしまうのは、それだけ彼に絆されているのだろう。

「セバスチャ、すとっぷ」
「ん?どうしました?」

しかしふと、とてもどうでもいい疑問が浮かび上がりセバスチャンを止める。
彼はその手で身体を撫でることはやめないものの顔は上げ、シエルの顔を覗きこんでくる。
その瞳は情欲に熟れており、必死に己を律しているのが窺えて、こんな疑問で止めたのが少し可哀相だったかな、とか。
それでも気になってしまったのだ。仕方が無いだろう。

「いま、何時だろう」
「・・・・・」

予想通りセバスチャンはシエルの疑問に思い切り眉を顰め、ため息をついた。

「今ここで気にすることですか」
「気になったんだから仕方が無いだろう」

実を言うと、この一子纏わぬ姿でいるのも何日目なのかすら分からない。
眠いと感じたら眠り、目が覚めたら愛する者と身体を繋げる・・・そんな怠惰な生活をずっと続けているのだ。
今が何時なのかどころではなく、今が何時(いつ)なのかも分からない。
だがふとこんな疑問が浮かんだということは、きっと自分が思っている以上に時は過ぎているのだろう。
悪魔にとっては少しの時間が人間にとっては多大な時間・・・―――悪魔にとってもかなりの時間が過ぎたと感じるならば、人間にとってどれほどの時が流れたのだろうか。
もしかしたら人間の人生ひとつ以上の時間が終わっているかもしれない。
しかしセバスチャンは何てこと無いように淡く微笑んだ。

「たとえ今が何時であろうが、いまは今ですよ」

貴方と私が一緒にいる。
愛し合っている。
それに時の刻みなど必要ですか?

「このベッドに沈む生活が少し飽きたら外に出てみればいい。そのとき他のことに手を出せばいいのです」
「・・・飽きるときなど来ないかもしれないぞ?」
「それなら――――」

永遠に、






What time is it now?

―――― It’s sweet time!!




彼のその答えに、シエルは声を立てて笑った。



Happy Wedding企画様よりお礼小説
  イラスト更新したかったのですが、納得出来ず、断念((+_+))
 やっと頂き物を載せる方法を見つけました♥
 相互リンクして頂きました主催者様よりの頂き物
 Silent Secret月猫様より頂きました(*^_^*)
 

 幸せなんて、もう無いと思っていた。
ここまで汚れてしまった自分には不似合いで、その幸せを願うことすらも罪になるような気がした。
けれど。

「坊ちゃん、私と結婚してください」

その言葉を聞いた時、どれほど嬉しかったことだろう。

契約を飛び越えて。
人種を飛び越えて。
彼は僕を求めた。
それはどれほどの奇跡なのだろうか。






「なぁ、セバスチャン」
「はい」

お互い白い衣装を纏いながら、小さな教会に二人きり。
この場所はすでに捨てられ、後は朽ちていくのを待つばかりの場所だ。
けれど天井からステンドグラスの色が降り注ぎ、寂しい美しさを生み出している。
そんな場所で二人きりの結婚式。
なんとも僕たちらしい。

「僕でいいのか」

いつもの黒色を纏っていない悪魔に、シエルは何度目かの質問を投げる。
何度確認したって足りない。
だって自分は人間だ。
いつかは消える。

そう、いつかは消えるのだ。

しかし彼は幸せそうに「はい」と頷いた。

「私は貴方がいいのです」
「だが…」
「では貴方は?」

もう次は何を言われるのか分かっているのだろう。
セバスチャンはそれを先に遮り、シエルと同じ問いかけをする。
自分と違うところは、彼からのその問いかけは初めてだったというとこだ。

「貴方は私でいいのですか?」
「…よくなければここにはいない」
「私も同じですよ」

シエルの答えに安心したように微笑み、抱きしめた。
その腕は冷たく、自分とは違うものなのだと全身で感じさせられる。
だがその腕は絶対的な幸せをシエルに運んでくる。
もう得られないと思っていた幸せを。

「ねぇシエル、私と幸せになりましょう」

セバスチャンは言う。

「これからの運命がどんなに過酷なものであっても、私は必ず貴方のお傍におります。貴方をずっと、永遠に愛することを誓いましょう。私が幸せになるには、貴方が必要不可欠なんです」

だから。

抱きしめている腕の力を少しだけ緩め、赤い瞳がシエルを見つめる。
そこには愛しさとか、嬉しさとか、そして寂しさとか。
そんな感情が混じった瞳で、セバスチャンは微笑んだ。

「私と結婚してください」


「…ばか」

小さくそう呟けばセバスチャンはクスリと笑って。
捨てられた教会に住んでいる神様の前で口付けた。

見せ付けるかのように。
この愛は本物だと言うように。
永遠を、望むかのように。

シエルはセバスチャンの首に腕を回し、もっともっとと彼を強請った。


きっとこれは罪だ。
誰からも祝福されず、そして神を冒涜するような行いだろう。
僕は悪魔を呼び出しただけではなく、その悪魔と恋に落ち、結婚までした。
それは普通の人間からしたら、どこまでも堕ちた…滑稽な人間に見えるだろう。
だが、自分はそれでもいいのだ。

いま彼が目の前にいて微笑んでいる。
それで十分だ。
この1つの奇跡でもう十分。

だから。
この悪魔が幸せになりますように。
自分を全てあげるから。
自分がいなくなった後も、どうか。


どうか…―――


口付けをしながら、祈る。
けれど。

その願いはどこに?
一体誰に?

この教会で口付けている二人を見て。
そんな祈りを捧げている人間を見て。
きっとここ神様は嘲笑ったに違いない。










でなければ。
もう一度、ここに来ることなど無かっただろう。










「何だか懐かしいな」

あの時とは逆の黒い衣装を身に纏って、シエルは教会に足を踏み入れる。
その表情はどこか愉しげで。
あの時に浮かべていた儚さなどまるで夢のようだ。

「まだ私にはつい最近のように感じますよ」

それを追いかけながら同じように黒い衣装を身に纏ったセバスチャンが苦笑する。
彼も同じように愉しそうだ。

「なら今日のことを僕が懐かしく感じる日が来るのは当分先か」
「そうなるかと」
「…まぁ、その方がいいだろう」

大切なことほど忘れたくないものだ。
そうやって笑えば、グイっと手を引かれセバスチャンの腕の中に閉じ込められる。
まるであの日…結婚した時のように。

「お前はあの時、僕に愛を誓ったな」
「はい」
「そして神の前で口付けた」
「えぇ」
「この結果はその罰だろう」

シエルは顔を上げて口角を吊り上げる。
その瞳は目の前にいる悪魔と同じ赤色。

「罰、ですか」
「僕は人間としての生を奪われ、お前は時間を掛けたディナーを奪われた。それは一番ダメージが大きいものなんじゃないか?」
「…そうかもしれませんね」

その赤い瞳を見つめたままセバスチャンも笑い、他の悪魔や人間たちにとっては、と付け足した。

「私にとってはこれが最高の形ですよ。神の前で結婚した甲斐がありました」
「それは本音か?」
「貴方に嘘は言えないでしょう?」

チュっとセバスチャンは軽くシエルに口付けを落とす。
悪戯なそれは悪魔の彼らしいものだ。

あの時と同じようで、あの時とはまったく違う。
シエルはセバスチャンの頬に手を伸ばし、優しく撫でながら聞く。
何よりも、どんなことよりも一番怖いことを。

「あの時の誓いのようにお前は僕を永遠に愛することが可能になったわけだが…」

なぁセバスチャン。

「お前は、幸せか?」



「…幸せでなければ、私はここにいませんよ」

まさかそう返ってくるとは思わなかったシエルは驚きに瞳を見開いた。
それにセバスチャンはクスリと笑って。
不安なシエルの為にもう一度誓いましょうかと、頬を撫でるシエルの手を強く握った。

「セバスチャ…」
「これからの運命がどんなに過酷なものであっても、私は必ず貴方のお傍におります。貴方をずっと、永遠に愛することを誓いましょう。私が幸せになるには、貴方が必要不可欠なんです」

あの時と同じ言葉。
けれど違うのは。
その赤い瞳に寂しさなんていう感情が、どこにも無いということだ。

「私と結婚してください」



セバスチャンが幸せになりますように…―――。
その願いはどこに?
誰に?

ちがう。

もう僕が幸せにしてやると胸を張って言える。
一緒に幸せになろうと言える。
何かに祈る必要なんて、もうどこにもないんだ。

きっともう誰にも僕たちの邪魔は出来ないだろう。
神様からの罰が最高な形だなんて。
神の手も届かない奈落の底へ落ちたも同然だ。
そこは二人だけの…。



「…仕方ないな」

シエルはセバスチャンのプロポーズに、
笑顔で頷いた。




Happy Wedding!!